第70話 火魔法とは
帰宅。
結局、お母さんを救う糸口は見つからなかった。
研究を始めようにも、現実は厳しい。
測定器。
魔法陣。
実験用の魔石。
どれも学生が簡単に買える値段ではなかった。
ルシエは椅子へ腰を下ろし、小さく息を吐く。
「……少し休憩しよう」
そう呟くと、自然と研究ノートを開いていた。
今日見てきた魔道具を忘れないうちにまとめておきたい。
誰に頼まれたわけでもない。
気付けば、昔からそうしていた。
研究は、お母さんを救うための手段。
それと同時に、ルシエにとって一番落ち着ける時間でもあった。
魔導冷房機。
魔法陣。
魔法石。
送風機構。
見たままの構造を丁寧に描き起こし、気付いたことを余白へ書き込んでいく。
その時だった。
ペン先が止まる。
「……あれ?」
冷房機の構造図を見つめたまま、小さく呟く。
(水魔法で冷やして……風魔法で送る)
もう一度、頭の中で構造を組み立てる。
(目的は、水を作ることじゃない)
(部屋の温度を下げること……)
何か引っかかる。
だが、その正体が分からない。
「きっと、何か見落としている……」
ルシエは立ち上がり、本棚から父の研究資料を取り出した。
さらに講義ノートも机へ並べる。
マリゴー。
ジョルジュ。
ホルトン。
マイヤー。
気付けば机の上は、資料で埋め尽くされていた。
ルシエはその光景を見渡し、小さく微笑む。
「……今日はここまでにしましょう」
焦って答えを出してはいけない。
研究は、一つずつ積み重ねるものだから。
ノートを閉じると、もう一度だけ机いっぱいの資料へ目を向ける。
「明日、もう一度考えてみます」
そう呟き、部屋の明かりを落とした。




