第60話 世界の見方
放課後。
王立魔法学校図書館。
静かな閲覧席で、ルシエは一冊のノートを開いていた。
今日までの講義内容を、一つずつ整理していく。
考えがまとまらない。
書いては消し、書いては止まる。
「隣、いい?」
顔を上げると、ノエルが立っていた。
「もちろんです」
二人は向かい合って席へ座る。
しばらく互いに黙ったままノートへ向き合う。
やがてノエルが苦笑した。
「……全然分からなかった」
ルシエも思わず笑う。
「私もです」
「あの先生方……」
「魔導師や大魔導師って、本当に次元が違いますね」
知識量ではない。
物事の見方そのものが違う。
ルシエは改めてノートを見つめた。
一枚のページへ、今日まで学んだことを書き並べる。
マリゴー。
――魔素。
ジョルジュ。
――干渉対象。
アントワンヌ。
――生命。
ホルトン。
――魔力回路。
マイヤー。
――魔法式。
眺めているうちに、不思議な感覚が芽生えた。
それぞれ別々の講義だと思っていた。
しかし違う。
全員が、同じものを違う角度から見ている。
ルシエの瞳が大きく開かれる。
「全部……繋がる」
魔素。
生命。
魔力回路。
魔法式。
どれ一つ欠けても、魔法は語れない。
ルシエは次のページをめくる。
そこだけは、まだ何も書かれていない。
白紙のページ。
ペンを持つ。
静かに、一文だけを書き込んだ。
『魔法とは、一体何なのでしょうか』
その問いだけが、真っ白なページに残る。
ルシエはゆっくりとノートを閉じた。




