第58話 全員、不正解
講堂を見渡したマイヤーは、小さく頷いた。
「……そうか」
一拍置き、静かに告げる。
「全員、不正解だ」
講堂が騒然となる。
「えっ!?」
「そんな馬鹿な!」
「教科書の魔法式ですよ!?」
「毎日使われている魔道具じゃないですか!」
誰もが耳を疑った。
家庭で何十年と使われ続けている送風魔道具。
その魔法式が間違っているなど、考えたこともなかった。
マイヤーは何も答えず、黒板へ向き直る。
そして、チョークを走らせた。
一本。
また一本。
魔法式の一部を消していく。
「先生!」
「何をしているんですか!」
「そんなところを消したら、術式が崩れます!」
構わず、さらに消す。
一本。
また一本。
複雑だった魔法式は、みるみる簡素になっていく。
講堂中の生徒が立ち上がりそうになる。
「ありえない……」
「もう半分くらい消えてるぞ」
「起動するわけないだろ」
最後に一本だけ線を消すと、マイヤーはチョークを置いた。
黒板に残っていたのは、元の半分ほどしかない魔法式だった。
教室は静まり返る。
一人の生徒が思わず叫ぶ。
「こんなの!」
「起動するわけがありません!」
マイヤーは無言のまま、送風魔道具へ魔力を流した。
次の瞬間。
――ブォォォッ。
心地よい風が講堂を吹き抜けた。
送風魔道具は、何事もなかったかのように正常に作動していた。
誰一人、言葉を発することができなかった。




