第53話 アントワンヌ・ベルナール
ジョルジュの講義が終わると、一人の女性が教壇へ上がった。
青みがかった長い髪を後ろで束ね、白衣の上から研究用のローブを羽織っている。
柔らかな笑みを浮かべ、生徒たちへ一礼した。
「初めまして」
「魔法生物学を専門としております、アントワンヌ・ベルナールです」
落ち着いた声が講堂へ響く。
「本日は、魔法生物についてお話しします」
黒板へ大きく文字を書く。
『魔法生物』
「さて、皆さん」
「魔法生物と聞いて、何を思い浮かべますか?」
生徒たちが次々と答える。
「飛竜です!」
「グリフィン!」
「バジリスク!」
「カーバンクル!」
アントワンヌは笑顔で頷いた。
「どれも正解です」
黒板へ名前を書き並べていく。
ワイバーン。
グリフィン。
バジリスク。
カーバンクル。
そして最後に。
バロメッツ。
「植物もですか?」
一人の生徒が驚く。
「ええ」
アントワンヌは微笑んだ。
「バロメッツは魔法植物の代表例です」
「魔法生物とは、動物だけを指す言葉ではありません」
「生まれながらに魔力を宿し、魔法的な性質を持つ生物全般を指します」
生徒たちは感心したように頷いた。
すると、一人の生徒が手を挙げる。
「先生」
「ガルムやオーク、ゴブリンも魔法生物ですよね?」
アントワンヌは首を横へ振った。
「いいえ」
「それらは魔法生物ではありません」
講堂がざわつく。
「えっ?」
「違うの?」
「魔法生物じゃないんですか?」
アントワンヌは黒板へ新しく二つの見出しを書いた。
魔法生物
魔物
「皆さんは、この二つを同じものだと思っています」
「ですが、まったく違います」
左側へ書き足す。
飛竜。
グリフィン。
バジリスク。
カーバンクル。
バロメッツ。
「彼らは生まれた時から魔法を扱う生物です」
「これが魔法生物」
今度は右側。
ガルム。
オーク。
ゴブリン。
「こちらは魔物です」
一拍置く。
講堂を見渡しながら、静かに告げた。
「魔物とは――」
「魔素によって変質した存在です」
その一言に、講堂は静まり返る。
「過剰な魔素の影響を受け、本来の生物が変質したもの」
「それが魔物です」
ルシエの瞳が大きく見開かれた。
(魔素によって……変質?)
その言葉が胸に引っかかる。
今まで学んだ講義が頭の中で繋がり始める。
魔素。
魔法。
物質。
そして、生物。
ルシエは無意識のうちにノートへ視線を落とした。
――魔素は、生物まで変えてしまうの……?




