第52話 現象ではなく本質
講堂には、まだ興奮が残っていた。
鉛筆の芯がダイヤモンドへ変わり、鉛が黄金へ変わる。
誰もが、その光景を信じられずにいる。
ジョルジュは黒板の前へ戻ると、静かにチョークを手に取った。
「さて」
「皆さんは今、土魔法を見ました」
一呼吸置く。
「では、質問です」
黒板へ大きく書く。
『土魔法とは何か』
教室は静まり返る。
一人の生徒が答えた。
「土や岩を操る魔法です」
「私もそう習いました」
「地面を動かしたり、岩を飛ばしたりする魔法です」
ジョルジュは笑顔で頷く。
「ええ」
「教科書にも、そのように書かれています」
そして。
その笑みを残したまま首を横へ振った。
「ですが」
「それは違います」
講堂がざわつく。
「土魔法は、土ではありません」
黒板へ新たな文字を書く。
土魔法=物質への干渉
生徒たちは息を呑んだ。
「土魔法が干渉しているのは、土という名前の物質ではありません」
「物質、そのものです」
チョークを走らせながら続ける。
「岩も」
「鉄も」
「木も」
「炭素も」
「黄金も」
「すべて物質です」
「私は、その構造へ干渉しています」
講堂は静まり返る。
「だから岩を動かせる」
「だから鉛筆の芯をダイヤモンドへ変えられる」
「だから鉛を黄金へ変えられる」
「どれも別々の魔法ではありません」
「すべて同じ土魔法です」
一人の生徒が思わず呟く。
「だから……土じゃないのか」
ジョルジュは頷いた。
「皆さんは、魔法を結果だけで分類しています」
「岩が動けば土魔法」
「炎が出れば火魔法」
「そう考えている」
一拍置く。
「ですが、魔法で大切なのは、何が起きたかではありません」
「何へ干渉しているかです」
その言葉が、講堂に静かに響いた。
ルシエの瞳が大きく見開かれる。
(干渉対象……)
(何へ干渉しているか……)
伝統魔法。
魔素へ直接干渉。
そして今。
土魔法。
物質へ干渉。
頭の中で、別々だった知識が一本の線で繋がり始める。
(魔法は……)
(見た目で決まるんじゃない)
ルシエは急いでノートを開いた。
震える手で、一行だけ書き記す。
『現象ではなく、本質』
その文字を見つめながら、ルシエは静かに息を呑んだ。
世界の魔法は――
まだ、自分の知らない法則で動いている。




