第51話 錬金学
講堂は静まり返っていた。
すべての視線が、教壇の上に置かれた一本の鉛筆へ注がれている。
ジョルジュは短杖をゆっくりと構えた。
「まずは、こちらからです」
淡い土色の魔法陣が足元へ浮かび上がる。
杖先が鉛筆を指した。
静かに魔力が流れ始める。
鉛筆の芯が、わずかに光を帯びた。
誰も息をしない。
やがて黒い芯は、透き通る結晶へと姿を変えていく。
光を受け、七色に輝いた。
「なっ……」
「嘘だろ……」
「ダイヤモンドだ……!」
講堂が一気にざわめく。
ジョルジュは鉛筆を持ち上げ、生徒たちへ見せた。
「鉛筆の芯は炭素でできています」
「そして、ダイヤモンドも同じ炭素です」
「錬金学では、物質の構造へ干渉することで、別の物質へ変換できます」
ルシエは息を呑んだ。
(物質そのものを変えた……)
ジョルジュは鉛筆を置く。
「では、もう一つ」
今度は、小さな鉛の塊を取り出した。
「これは鉛です」
再び土色の魔法陣が輝く。
鉛を包み込む光。
数秒後。
灰色だった金属は、美しい黄金色へ変わっていた。
一瞬の静寂。
そして――。
「うおおおおおっ!!」
講堂が大歓声に包まれる。
「金になった!」
「どうやったんだ!?」
「どんな術式なんだよ!」
「全然分からない!」
しかし、その歓声とは別に、前列の上級生たちの表情は驚愕へ変わっていた。
「いや……待て」
「そんなはずがない」
一人の生徒が立ち上がる。
「錬金学で出来るのは、せいぜい近い性質を持つ物質への変換までだ!」
「ここまで根本から物質を変えるなんて、不可能なはずだ!」
別の生徒も続く。
「学院の教科書にも載ってないぞ……」
「こんなの、聞いたこともない」
「本当に土魔法だけでやったのか?」
ざわめきはさらに大きくなっていく。
ジョルジュは困ったように笑いながら、黄金の塊を机へ置いた。
「……と、その前に一つだけ」
講堂が静かになる。
「先に言っておきます」
「金の人工錬成は違法です」
一瞬の沈黙。
「真似しないでくださいね」
講堂は爆笑に包まれた。
「先に言えよ!」
「危うくやるところだった!」
「できるわけないだろ!」
ジョルジュも声を上げて笑う。
「安心してください」
「皆さんが今すぐ真似できるほど、錬金学は簡単ではありません」
そう言って黄金へ視線を落とした。
「……もっとも」
「これを”不可能”だと言われ続けたからこそ、私は研究を続けたんですけどね」
その一言に、講堂は再び静まり返った。




