第50話 ジョルジュ・デュラン
マリゴーの講義が終わると、一人の男性が教壇へ上がった。
白衣を羽織ったその男は、鍛えられた体つきとは裏腹に、どこか親しみやすい雰囲気をまとっていた。
手には一本の短杖。
教壇へ立つと、軽く頭を下げる。
「初めまして」
「錬金学を専門としております、ジョルジュ・デュランです」
穏やかな声が講堂へ響く。
「今日は、錬金学についてお話しします」
黒板へ大きく文字を書く。
『錬金学』
続けて、その横へ四つの文字を書き並べた。
火。
風。
水。
土。
ジョルジュは生徒たちを見回す。
「皆さんは、四大属性魔法について、どのような印象を持っていますか」
一人の生徒が手を挙げた。
「火魔法が一番難しいです」
「風魔法も結構難しいですね」
「水は普通くらい」
「土は一番簡単です」
「そうですね」
ジョルジュは頷く。
「一般的には、その認識で間違っていません」
黒板へ矢印を書き加えた。
火
↓
風
↓
水
↓
土
「現在の魔術界では、火魔法が最も難しく、土魔法が最も習得しやすいと考えられています」
生徒たちは当然のように頷く。
誰も疑問を抱かない。
それが世界の常識だからだ。
ジョルジュは苦笑した。
「ちなみに」
「私は土魔法しか使えません」
その一言で、講堂がざわついた。
「えっ?」
「土だけ?」
「それで魔導師なの?」
驚きの声があちこちから上がる。
さらに後方では、小さな囁きが聞こえてきた。
「土って一番簡単な属性だろ」
「地味だし」
「岩飛ばすくらいしか思いつかない」
ジョルジュは、その声を咎めることなく、どこか懐かしそうに笑った。
「ええ」
「学生時代は、私もよくそう言われました」
少し肩をすくめる。
「土魔法は最弱」
「地味」
「才能がない者の属性」
「散々でしたよ」
講堂から笑いが起こる。
ジョルジュもつられて笑った。
「でもね」
穏やかな笑みを浮かべたまま、生徒たちを見渡す。
「私には、その考えが間違っていると証明してくれた先生がいました」
一拍置く。
「だから今日は、私が皆さんに証明しましょう」
講堂が静まり返る。
ジョルジュは白衣のポケットへ手を入れた。
「鉛筆は持っていますか?」
生徒たちは顔を見合わせる。
「持ってますけど……」
「何に使うんですか?」
ジョルジュは口元を緩めた。
「まあまあ」
「とりあえず見ていてください」
そう言って一本の鉛筆を取り出し、教壇の上へそっと置く。
「土魔法が最弱だと思うのなら――」
短杖を静かに構えた。
「見せましょう」
その瞬間。
講堂中の視線が、一斉に一本の鉛筆へ集まった。




