表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/161

第44話 喫茶店

 放課後。


 図書室で数時間にわたり古代文献を読み続けたルシエは、小さく背伸びをした。


「……少し休憩しようか」


 ノエルも本を閉じる。


「賛成」


「頭が煮詰まってきた」


 二人は学園近くの喫茶店へ入った。


 木の温もりを感じる落ち着いた店内。


 窓際の席へ腰を下ろす。


 注文した紅茶とケーキが運ばれてくると、ルシエはぱっと表情を明るくした。


「美味しそう」


 フォークで一口すくい、口へ運ぶ。


 甘さが広がると、自然と頬が緩んだ。


「……幸せ」


 その様子に、ノエルは思わず笑う。


「そんなに甘い物が好きなんだ」


「うん」


 ルシエは真面目な顔で頷いた。


「糖分を摂取すると、思考効率が上がるそうです」


「研究のお供には欠かせません」


「そういう理由なんだ」


「もちろん、美味しいからでもあるけど」


 少し照れ笑いを浮かべながら、もう一口ケーキを頬張る。


 そして、そのまま研究ノートを開いた。


「休憩じゃないのか?」


「甘い物を食べながら考えるの」


「この方が頭が回るから」


 ノエルは苦笑する。


「徹底してるな」


 ルシエはノートへ視線を落とした。


 以前書き留めた問いが目に入る。


『なぜ魔粒子は属性を持つのか』


 その隣へ、新たな一文を書き加えた。


『各魔粒子の性質は如何なるものか』


「火の魔粒子は、どうして火になるんだろう」


 ルシエがぽつりと呟く。


「水も、風も、土も」


「名前はあるけど、本質までは分かってない」


 ノエルもノートを覗き込んだ。


「火は炎を生み出す」


「水は水を操る」


「風は風を起こす」


「土は岩や土を操る」


「授業ではそう習ったけど」


 ルシエはゆっくり首を横に振る。


「それは現象の説明なんだと思う」


「現象?」


「例えば火魔法」


「炎が出るから火魔法って呼んでいるだけで、本当は別のものへ干渉しているのかもしれない」


 ノエルは腕を組んだ。


「つまり、本当の性質はまだ分からないってことか」


「うん」


「昨日の古代文献にも、『魔素へ直接働きかける』って書かれていた」


「今の常識だけでは説明できないことが、まだある気がする」


 二人はしばらく黙ってノートを見つめる。


 答えは見つからない。


 それでも、疑問は少しずつ形になっていく。


「まだ仮説にもならないね」


 ルシエは苦笑した。


「でも、こういう時間が一番楽しいの」


「一つの疑問から、また次の疑問が生まれるから」


 ノエルはその言葉を聞いて、小さく笑った。


「なるほど」


「だから、あんな難しい本でも夢中になれるのか」


 ルシエは嬉しそうに頷く。


「知らないことを知るのって、面白いから」


 その笑顔は、研究の成果を誇るものではない。


 考える時間そのものを楽しんでいる人の笑顔だった。


「……あ」


 ノエルがふと気付く。


「ルシエ」


「ん?」


「頬」


「え?」


「クリーム付いてる」


 ルシエは慌てて自分の頬へ手を当てた。


「ど、どこ?」


「反対」


「こっち?」


「もう少し上」


「えっ、まだ?」


 慌てて何度も頬をこする姿に、ノエルは吹き出してしまう。


「ふっ」


「笑わないでよ……」


 ようやくクリームを拭き取ると、ルシエは耳まで赤く染めた。


「……恥ずかしい」


 普段の落ち着いた姿との違いが、どこか微笑ましかった。


 ノエルは紅茶を一口飲み、静かに笑う。


「そういうところもあるんだな」


「忘れて」


 ルシエは照れ隠しにケーキをもう一口頬張った。


 しばらく他愛もない話をしながら紅茶を飲み終えると、ルシエはノートを閉じる。


「よし」


「続き、図書室で調べよう」


「今日は、まだ時間あるし」


「ああ」


 二人は席を立つ。


 解けない疑問は、まだたくさんある。


 けれど、それを一つずつ考え、語り合う時間は、不思議と苦にならなかった。


 並んで歩く二人の足取りは、図書室へ向かう時よりも、どこか軽くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ