第41話 魔導書専門店
数日後。
魔法歴史学の講義が終わると、教授は教壇で一枚の紙を掲げた。
「次回までの課題だ」
「古代魔術文明について調べ、自分なりの考察をまとめて提出すること」
教室がざわつく。
「またレポートか……」
「図書館だけじゃ資料足りないよな」
教授は頷く。
「王立図書館でも構わないが、街には専門店もある」
「古い魔導書を扱う書店なら、より興味深い資料が見つかるだろう」
授業が終わり、生徒たちは帰っていく。
ルシエはノートを閉じながら小さく呟いた。
「街へ行こうかな……」
「専門書なら、図書館より詳しい本があるかもしれない」
すると隣から声がした。
「僕も行く」
ノエルだった。
「一人で調べるより、その方が面白そうだ」
ルシエは少し驚いたように目を瞬かせる。
「……一緒に?」
「ああ」
「どうせ同じ課題だし」
少しだけ考えたあと、ルシエは微笑んだ。
「じゃあ、お願いします」
◇
放課後。
二人は王都の一角にある魔導書専門店を訪れていた。
店内には天井まで届く本棚が並び、年代物の魔導書が所狭しと並べられている。
革表紙の匂い。
紙の香り。
静かな空気。
ルシエは目を輝かせた。
「すごい……」
「こんなにたくさん」
「普通の本屋じゃ見ない本ばかりだ」
ノエルも棚を見回す。
「古代魔術の資料だけでも相当あるな」
二人は手分けして本を探し始めた。
しばらくして。
机の上には何冊もの魔導書が積み上がっていた。
ルシエが一冊を開く。
「この本には、伝統魔法は『魔素そのものを動かす技術』って書いてある」
ノエルは別の本を開く。
「でも、こっちは『魔力制御技術の原点』だって」
「表現が違うな」
ルシエは少し考える。
「どっちも間違いじゃないと思う」
「魔素を動かすには、魔力の制御も必要だから」
ノエルは腕を組んだ。
「いや、僕は逆だと思う」
「まず魔力制御があって、その結果として魔素へ干渉できるようになったんじゃないか?」
ルシエは首を横へ振る。
「違うと思う」
「私は、魔素へ干渉できたからこそ、後から魔力制御が体系化されたんだと思う」
「でも――」
「いや――」
二人は顔を突き合わせながら議論を続ける。
「僕はこう思う」
「私はこう考える」
「それだと説明がつかない」
「この記述なら辻褄が合うよ」
時間を忘れるほど夢中になっていた。
◇
「ははは」
不意に笑い声が聞こえた。
二人が顔を上げると、白髪交じりの店主が楽しそうにこちらを見ていた。
「いやあ、失礼」
「ずいぶん仲が良いもんでね」
店主は目を細める。
「兄妹かい?」
その瞬間。
「ち、違っ――!」
ノエルの顔が一気に赤くなる。
言葉が詰まり、慌ててルシエを見る。
一方のルシエはきょとんとしたまま首を傾げた。
「違います」
店主が笑う。
「じゃあ幼なじみか?」
「いえ」
「研究仲間です」
即答だった。
ノエルは苦笑しながら頭をかく。
「……ま、まあ」
「そんな感じです」
店主は豪快に笑った。
「若いっていいねぇ」
「本を読んで言い合える相手がいるってのは、何よりの財産だ」
二人は顔を見合わせる。
ルシエは小さく頷いた。
「はい」
「私も、そう思います」
ノエルは照れ隠しのように咳払いを一つすると、再び本へ視線を落とした。
「……ほら、続きを調べよう」
「うん」
二人は再び魔導書を開き、それぞれの考えをぶつけ合いながら、古代魔術文明への理解を少しずつ深めていくのだった。




