第40話 王立図書館
数日後。
魔法理論学の授業。
アルベルト教授は教壇へ立つと、一枚の紙を掲げた。
「今回の課題だ」
「王立図書館へ行き、『古代魔術』について調べ、自分なりの考察をまとめて提出しなさい」
教室がざわつく。
「王立図書館ですか」
「あそこ、蔵書量がすごいらしいぞ」
「何から調べればいいんだ……」
アルベルトは穏やかに微笑んだ。
「答えを書き写す課題ではない」
「自分で考えること。それが目的だ」
授業が終わる。
放課後。
ルシエは一人、王立図書館へ向かった。
天井まで届く本棚。
膨大な魔法書。
世界中から集められた古文献。
「すごい……」
思わず感嘆の声が漏れる。
目的の棚へ向かい、本を読み始めた。
その時、小さな足音が近付いてくる。
「……ルシエ」
振り返ると、ノエルが立っていた。
「あ、ノエルさん」
少しだけ気まずい空気が流れる。
ノエルは視線を泳がせながら口を開いた。
「ちょっと……聞いてもいい?」
「もちろんです」
ノエルはノートを開く。
「古代魔術って、魔法式の途中で魔力の流れが逆転する記述があるでしょ」
「でも、それだと理論が矛盾しちゃうんだ」
「僕なりに考えてみたんだけど……どうしても説明できなくて」
言い終えると、小さく苦笑する。
「……やっぱり変な質問かな」
「こんなの聞いたら、笑われるよね」
ルシエは優しく首を横に振った。
「そんなことありません」
「そこって、すごく見落としやすいところなんです」
ノエルは思わず顔を上げた。
「私も最初は、まったく同じところで悩みました」
「え?」
「古代魔術は、現代魔法と魔力循環の考え方が少し違うんです」
ルシエは一枚の紙を取り出し、魔法式を書き始める。
「ここを、こう考えると……」
一本の線を書き加える。
「矛盾しなくなります」
「……あっ!」
ノエルの目が大きく見開かれた。
「そういうことか!」
ルシエは嬉しそうに微笑む。
「でも、ノエルさんの発想、私すごく好きです」
「え?」
「この考え方は、私にはありませんでした」
「だから……」
ルシエは少し照れくさそうに笑った。
「ノエルさんのおかげで、新しいことを思い付きました」
そう言うと、さらに魔法式を書き加えていく。
「あれ……」
「これなら、古代魔術だけじゃなくて、現代魔法にも応用できるかもしれません」
ノエルも隣へ座り、夢中でノートへ書き込み始める。
「だったら、この部分も変えられるかも」
「あ、本当ですね!」
「それなら、こっちも……」
二人は夢中で魔法式を書き続けた。
時間が過ぎるのも忘れて。
気付けば、窓の外は夕焼けに染まっていた。
「もうこんな時間?」
ノエルが苦笑する。
「本当ですね」
ルシエも笑った。
研究とは、一人で進めるものだと思っていた。
けれど。
誰かと意見を交わし。
互いの発想を重ねることで、自分一人では辿り着けない答えが見えてくる。
その楽しさを、ルシエは初めて知った。
そしてノエルもまた。
誰かと共に研究することが、こんなにも楽しいものなのだと知るのだった。




