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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第2話 魔王討伐隊

 魔王討伐のため集められたのは、五人の英雄だった。


 大聖女ミュゲ。


 聖騎士アーサー。


 暗黒騎士アデラーン。


 学者クロエ。


 エルフの魔術師サンセリテ。


 各国、各種族を代表する最高峰の実力者たちである。


 五人は、人類史上誰一人として踏破できなかった魔王領へ足を踏み入れた。


 森は静かだった。


 いや、静かすぎた。


 鳥のさえずりも。


 獣の鳴き声も。


 何一つ聞こえない。


 聞こえるのは、木々を揺らす風の音だけ。


 だが、その風には息苦しいほど濃密な魔素が混ざっていた。


 サンセリテが足を止める。


 長い耳がわずかに動き、精霊眼が周囲の魔粒子を捉える。


「来ます」


 次の瞬間。


 森の奥から無数の影が飛び出した。


 巨大な牙を持つガルム。


 棍棒を振るうオーク。


 木々を飛び移るゴブリン。


 数十体にも及ぶ魔物の群れだった。


 真っ先に駆け出したのは、聖騎士アーサー。


 聖剣が鞘から抜き放たれる。


 刀身へ淡い光が宿った。


 一歩踏み込む。


 洗練された一閃が、先頭のガルムを一刀のもとに切り裂く。


 光を帯びた刃に触れた魔物は、断面から粒子となって崩れ落ちた。


 二体。


 三体。


 攻守一体の美しい剣筋が、迫り来る魔物を次々と討ち倒していく。


 しかし、その背後からさらに魔物が押し寄せた。


 黒い外套が静かに揺れる。


 アデラーンが一歩前へ出た。


 呼吸を整える。


 身体を整える。


 魔素を直接、自らの魔力へ変換する。


「暗黒」


 漆黒の魔力が全身を巡り、肉体を極限まで活性化させる。


 さらに、その力を刀身へ纏わせた。


「暗黒剣」


 踏み込みは最小。


 振りは最短。


 放たれた一の剣――崩剣。


 鋭い斬撃がガルムを袈裟懸けに断ち切る。


 その刃が断ったのは肉体だけではない。


 体内を巡る魔力回路までも、一刀のもとに切り裂いていた。


 倒れた魔物は再生することなく、その場へ崩れ落ちる。


 続けて二の剣――返月。


 低い姿勢から放たれた切り上げがオークを吹き飛ばす。


 三の剣――流風。


 風のような歩法で包囲を抜ける。


 四の剣――横掃千軍。


 横薙ぎの一閃が群がる魔物をまとめて薙ぎ払った。


 地方流派に過ぎない魔剣流。


 しかし、その実戦能力は王国三大流派にも決して引けを取らない。


 後方では、ミュゲが静かに杖を掲げていた。


 柔らかな光が五人を包み込む。


 身体へまとわりついていた魔素が、雪解けのように消えていく。


 魔素による侵食は抑えられ、仲間たちの疲労も癒やされていった。


 その間も、サンセリテは精霊眼で周囲を観察し続ける。


 やがて、その表情がわずかに曇った。


「風ではありません……」


「魔素そのものが動いています」


「しかも、一方向へ」


 クロエは地面へしゃがみ込み、黒く変色した土を手に取る。


 木々を見上げる。


 草花へ触れる。


 倒れた魔物を観察する。


 そして、周囲を漂う魔素の流れを静かに追い続けた。


 しばらく考え込んだ後、クロエはゆっくりと立ち上がる。


 視線の先には、遥か彼方にそびえる巨大な城。


 魔王城。


「……そういうことじゃったか」


 小さく呟き、四人を振り返る。


「魔素は、濃度の高い場所へ流れる」


「川の水が低い場所へ集まるように」


「空気が渦の中心へ吸い込まれるように」


「魔素もまた、より濃い場所へ引き寄せられる性質を持っておる」


 クロエは魔王城を指差した。


「見よ」


「大地から」


「森から」


「空気から」


「魔物から」


「この国に存在する、あらゆる魔素が、あの城へ向かって流れ込んでおる」


 サンセリテも精霊眼を閉じ、小さく頷く。


「……間違いありません」


 クロエは静かに断言した。


「この国全体が、あの城へ魔素を送り込んでおる」


「魔王城は、単なるニコラスの住居ではない」


「世界中の魔素を引き寄せる、巨大な循環の中心じゃ」


 一拍置いて、さらに続ける。


「いや――」


「魔王領そのものが、一つの巨大な魔導機構として設計されておるのじゃろう」


 五人は誰も言葉を発さなかった。


 ただ静かに、黒雲を貫いてそびえ立つ魔王城を見上げる。


 その城の最深部に。


 千年にわたる災厄の元凶――魔王ニコラスが待っていた。

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