表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/161

第1話 千年の魔王

 初めまして。Atelier Lotusです。


 本作を手に取っていただき、ありがとうございます。


 この作品は、「魔法を研究する物語」をテーマにしたファンタジーです。


 主人公は魔法が使えない少女。


 しかし、誰よりも魔法を理解しようとする知識と探究心を武器に、仲間と共に世界の魔法理論へ挑んでいきます。


 派手な俺TUEEEではなく、仮説を立て、実験を繰り返し、失敗から学びながら少しずつ真理へ近づいていく――そんな研究者たちの成長を楽しんでいただければ嬉しいです。


 もちろん、研究だけではありません。


 ルシエとノエルの少しずつ距離が縮まっていく関係も、本作の見どころの一つです。


 最後まで楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想などで応援していただけると、とても励みになります。


 それでは、『無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます』をよろしくお願いいたします。

 魔王ニコラスが現れてから、およそ千年。


 世界は、後に「魔王時代」と呼ばれる長い災厄の中にあった。


 魔王。


 その言葉を聞けば、多くの者は恐ろしい征服者を思い浮かべるだろう。


 無数の軍勢を率いて他国へ攻め込み、町を焼き、人々を服従させる暴君。


 あるいは、世界のすべてを支配しようとする欲深き王。


 しかし、ニコラスはそのどちらでもなかった。


 広大な領土も。


 莫大な財宝も。


 人々からの忠誠も、崇拝も。


 彼は何一つ求めていなかった。


 ニコラスが望んだものは、ただ一つ。


 自らの死を克服し、永遠に生き続けることだった。


 人は生まれ、成長し、老い、やがて死ぬ。


 王も。


 英雄も。


 偉大な魔術師も。


 どれほど大きな功績を残そうとも、最後には必ず命を失う。


 多くの者は、それを自然の摂理として受け入れていた。


 死後は神の御許へ召される。


 魂は生まれ変わる。


 あるいは永遠の眠りにつく。


 人々はそれぞれの信仰や思想によって死を説明した。


 だが、誰一人としてそれを証明した者はいない。


 死者が戻り、その先に何があったのかを語ったことは、一度もなかった。


 ニコラスは、その事実を何より恐れた。


 自分は、いったい何処から来たのか。


 無から突然生まれたわけではあるまい。


 生まれる以前にも、自分という存在へ繋がる何かがあったはずだ。


 では、死んだ後は何処へ行くのか。


 魂は残るのか。


 別の命へ生まれ変わるのか。


 それとも、自分という存在は跡形もなく消えてしまうのか。


 どれほど古代の文献を読み漁っても。


 どれほど高名な聖職者へ尋ねても。


 どれほど偉大な魔術師へ問いかけても。


 返ってくる答えは、いつも同じだった。


 ――分からない。


 その未知が、ニコラスには耐えられなかった。


 死とは、生命活動が止まることではない。


 何処から来たのかも分からないまま。


 何処へ行くのかも分からない場所へ。


 強制的に送り出されることだった。


 そこに救いがあるのか。


 苦痛が待っているのか。


 自分という意識は残るのか。


 それとも、すべてが消えてしまうのか。


 何一つ分からない。


 そして一度死ねば、たとえ答えを知ったとしても二度と戻ることはできない。


 だからこそ、ニコラスは魔術を研究した。


 死後の世界が分からないのなら、そこへ行かなければいい。


 魂の行方が分からないのなら、肉体から離れなければいい。


 死そのものを克服すればいい。


 病を治すためでもない。


 人々の暮らしを豊かにするためでもない。


 ただ、自分が死なないために。


 昼も夜もなく研究を続けた。


 古代の文献を読み漁り。


 失われた術式を復元し。


 魔素と魔粒子の性質を解き明かす。


 幾度失敗しても。


 どれほど多くの犠牲を出しても。


 ニコラスは止まらなかった。


 そして、ついに彼は辿り着く。


 老化しない肉体。


 傷ついても瞬時に再生する身体。


 心臓が止まっても。


 肺が朽ちても。


 魔法によって無理やり機能を維持し続ける生命。


 ニコラスは、自らの肉体を不死へと変貌させた。


 人々は、彼を魔王と呼んだ。


 だが、魔王となった後も、ニコラスは軍勢を率いて世界へ攻め込むことはなかった。


 人間の国を奪おうともせず。


 王として民の上へ立とうともしない。


 彼はナルシス王国の一角に形成された魔王領、その中心に築かれた魔王城へ引きこもる。


 城門は閉ざされ、人前へ姿を現すこともほとんどない。


 ただ一人。


 さらなる魔術研究を続けていた。


 それだけだった。


 しかし。


 ニコラスが何もしなくとも、世界は少しずつ壊れていく。


 魔王城を中心として、魔素は増え続けた。


 空気は重く淀み。


 川の水は濁り。


 大地は黒ずんでいく。


 森の木々は異常な速度で成長し、互いの幹を押し潰すほど密集した。


 草花は人の背丈を超え、蔓は建物へ絡みつく。


 動物たちもまた、過剰な魔素によって姿を変えた。


 狼はガルムへ。


 豚はオークへ。


 霊長類はゴブリンやオーガへ。


 魔物となった彼らは、魔王の命令で動いていたわけではない。


 ただ、変質した本能のまま人々へ牙を剥いた。


 さらに、高濃度の魔素が長期間集まった土地では、地形そのものが変質する。


 昨日まで何もなかった丘に巨大な洞窟が生まれ、地下深くまで続く迷宮が形成される。


 内部では魔鉱石が育ち、魔物が巣食い、人知を超えた構造を持つ空間となった。


 人々は、それをダンジョンと呼んだ。


 人間もまた例外ではない。


 高濃度の魔素を浴びた者は発熱、呼吸困難、痙攣、意識障害を起こし、魔力回路が暴走する。


 命を取り留めても、体内へ残留した魔素が少しずつ魔力回路を侵食していく。


 魔素汚染。


 そう呼ばれる病に、有効な治療法は存在しなかった。


 魔王ニコラスは、自ら人を殺して回ったわけではない。


 国を滅ぼせと命じたこともない。


 それでも、彼が生き続けるために生み出したものが、世界中の命を奪っていた。


 一年。


 十年。


 百年。


 そして千年。


 世界は増え続ける魔物と魔素災害に苦しみ続けた。


 幾度となく魔王討伐隊が編成された。


 各国の騎士団。


 高名な冒険者。


 歴史に名を刻む魔術師。


 数え切れない英雄たちが魔王領へ挑んだ。


 しかし、誰一人として魔王城へ辿り着くことはできなかった。


 魔物に襲われ。


 濃密な魔素に身体を侵され。


 あるいは迷宮の奥深くへ消えていった。


 人々はやがて思うようになる。


 魔王は倒せない。


 魔王時代は永遠に続く。


 子どもたちは、それを当たり前の歴史として教えられて育った。


 それでも世界は諦めなかった。


 千年にわたる災厄へ終止符を打つため。


 各国、各種族から五人の英雄が選ばれる。


 ナルシス王国と魔王領の境界。


 かつて豊かな草原だったその場所は、今では黒く変色した大地と異形の森に覆われていた。


 空には分厚い雲が垂れ込め、昼なお薄暗い。


 魔王領から吹き付ける風には、息苦しいほど濃密な魔素が混ざっている。


 その境界に、五つの人影が立っていた。


 白き聖衣をまとった大聖女ミュゲ。


 聖剣を携えた聖騎士アーサー。


 黒剣を背負う暗黒騎士アデラーン。


 分厚い書物を抱えた学者クロエ。


 そして長杖を手にしたエルフの魔術師サンセリテ。


 五人は無言で、遥か彼方にそびえる巨大な城を見つめていた。


 魔王城。


 千年間、誰一人として攻略できなかった災厄の中心。


 五人は静かに歩き始める。


 千年続いた魔王時代へ、終止符を打つために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ