第33話 実技試験
理論試験から数日後。
王立魔法学校では、実技試験が始まっていた。
試験内容は二つ。
属性魔法。
そして伝統魔法。
まずは属性魔法による的当てである。
順番に生徒たちが魔法を放ち、試験官が威力や精度を採点していく。
「次、ルシエ・フローレンス」
名前を呼ばれたルシエは、一歩前へ出た。
深く息を吸い、父アルフォンスの形見であるルーデル=カルテ製の長杖を構える。
魔力を流し込み、魔法式を展開する。
しかし――。
何も起こらない。
もう一度試みる。
結果は同じだった。
試験官が静かに告げる。
「属性魔法、不発」
その一言で、演習場に笑いが広がる。
「やっぱり無能じゃねえか」
「いい杖持ってるのにもったいないな」
「ルーデル=カルテ製だろ?」
「杖の性能だけは一流だな」
「その杖、俺が使った方が強そう」
ルシエは何も言い返さない。
ただ静かに杖を下ろした。
「では、伝統魔法を行ってください」
「はい」
試験官の指示に従い、台座の上に置かれた小さな金属球へ意識を向ける。
魔素へ直接干渉する。
ふわり、と金属球が浮かび上がった。
指定された高さまで。
ぶれることなく。
ゆっくりと円を描くように移動し、最後は音もなく元の位置へ戻る。
その動きは、まるで見えない糸で操られているかのように滑らかだった。
試験官は思わず目を細める。
「……ほう」
だが、生徒たちは拍子抜けしたように肩をすくめた。
「だから何?」
「数センチ浮かせただけじゃん」
「伝統魔法なんて誰でもできるだろ」
「杖がいいから安定してるだけだ」
「さすがルーデル=カルテ製」
「道具が優秀なんだよ」
誰一人、その制御技術へ目を向けない。
しかし。
試験官だけは魔力計測器を見つめたまま固まっていた。
「……おかしい」
隣の教師が首を傾げる。
「どうされました?」
「消費魔力です」
教師も計測値を見るなり、表情を変えた。
「馬鹿な……」
伝統魔法は魔素へ直接干渉する最古の魔法体系。
魔力効率が悪く、わずかな作業でも大量の魔力を消費する。
だからこそ現代では、属性魔法へ取って代わられていた。
だが。
ルシエだけが違う。
「同じ仕事量なのに……消費魔力が半分以下?」
「いや……それ以上に少ない」
試験官は再び金属球へ視線を向けた。
「制御精度も異常だ」
「魔力の無駄が、一切見当たらない」
教師は小さく息を呑む。
「一年生の制御技術とは思えません」
しばらく沈黙した後、試験官は静かに記録を書き込んだ。
「……だが、伝統魔法だ」
「評価対象としては高くできん」
それが、この時代の常識だった。
少し離れた場所で試験を見ていたノエルは、一連のやり取りを黙って見つめていた。
(今の数値……)
他の生徒も同じ課題をこなしていた。
浮かせた高さも。
移動距離も。
仕事量に大きな違いはない。
それなのに、ルシエだけ消費魔力が極端に少ない。
(伝統魔法は燃費が悪い)
(それが、この世界の常識だ)
ノエルは杖ではなく、ルシエの指先を見つめる。
(違う……)
(あれは杖の性能じゃない)
魔素の流れに、乱れがない。
まるで最初から、その軌道を知っているかのようだった。
(属性適性はゼロ)
(なのに、どうして魔素だけは、あそこまで正確に扱える……?)
ノエルは静かに腕を組む。
周囲は誰も気付かない。
教師たちでさえ、「惜しい才能」として片付けた。
だが、ノエルだけは確信していた。
(あいつには、まだ誰も気付いていない何かがある)
その小さな違和感は、やがて世界の魔法理論を覆す発見へとつながっていくことになる。




