第31話 魔法歴史学
午後の講義は、魔法歴史学。
教壇へ立った教授は、古びた一冊の魔導書を掲げた。
「本日は、古代魔術文明について学ぶ」
「現在の属性魔法が体系化される以前、人々は『伝統魔法』を用いて生活していた」
黒板へ古い魔法陣が描かれる。
「伝統魔法は、魔素そのものへ直接干渉する最古の魔法体系だ」
「浮遊、念動、押圧、引力――」
「いずれも単純な魔法だが、現代魔術の礎となった」
教授の説明を聞きながら、生徒たちはどこか退屈そうだった。
一人の男子生徒が手を挙げる。
「先生」
「それって、人類の魔法がまだ発展してなかった頃の話ですよね?」
教室から笑いが漏れる。
「そうそう」
「そんな使えない魔法、今さら勉強する意味あります?」
「ちょっと物を動かせる程度じゃん」
「魔力消費も多いし、効率も悪い」
「もっと高度な魔法の授業が聞きたいです」
賛同する声が次々と上がる。
「火魔法とか複合魔法の方が役に立つよな」
「古い技術なんて時代遅れだろ」
教授は静かに教室を見渡した。
「……確かに、現代ではそう考える者も多い」
「だが、古い技術だからといって価値がないとは限らない」
「現代魔術は、先人たちが積み重ねてきた研究の上に成り立っている」
「歴史を知ることは、魔術を知ることでもある」
しかし、生徒たちの反応は薄い。
ほとんどが興味を失い、机へ頬杖をついていた。
そんな中――。
ルシエだけは、一言も聞き漏らすまいとノートを走らせていた。
伝統魔法。
魔素への直接干渉。
現代魔法との違い。
一つひとつを書き留めながら、真剣な眼差しで教授を見つめる。
授業の終わり際。
教授は問いかけた。
「では最後に」
「伝統魔法について、何か意見はあるかね?」
静まり返る教室。
ルシエが静かに手を挙げた。
「はい」
「古いから価値がないとは限りません」
「今では不要に見える技術でも、当時は必要だった理由があるはずです」
「その理由を知れば、現代魔術では気付けない発見があるかもしれません」
教授は満足そうに微笑んだ。
「その通りだ」
「学問とは、新しい知識を学ぶことだけではない」
「過去を理解することでもある」
教室は静まり返る。
その沈黙を破るように、後ろの席から小さな笑い声が漏れた。
「必死だな」
「伝統魔法しか使えないから、興味あるんだろ?」
「属性魔法が使えないもんな」
「まあ、せいぜい頑張れよ」
クスクスと笑いが広がる。
ルシエは何も言い返さない。
ただ静かにノートを閉じるだけだった。
◇
授業が終わり、生徒たちは教室を後にする。
ノエルは荷物をまとめながら、ルシエの背中を見つめていた。
(まただ)
(みんなが退屈だと思っていた授業を、一番真剣に聞いていた)
最新の魔法だけを追い求めるのではない。
誰も見向きもしない古い知識にも価値を見いだそうとしている。
周囲は「伝統魔法しか使えないからだ」と笑う。
だが、ノエルにはそうは見えなかった。
(あいつは……)
(知識を集めているんじゃない)
(知識を繋げようとしているのか)
ノエルは小さく笑みを浮かべる。
(やっぱり、面白い奴だ)




