第30話 魔粒子学
魔粒子学。
魔法理論を学ぶ者にとって、最も重要な基礎学問の一つ。
教授は黒板へ四つの円を描いた。
「諸君は既に知っているだろうが、魔素は未分化の根源エネルギーだ」
「通常魔法では、その魔素から必要な属性の魔粒子――通称エレメントを抽出し、魔法式によって制御する」
教授は四つの円へ文字を書き加えていく。
火。
水。
風。
土。
「現在確認されている基本属性は、この四種類だ」
「火の魔粒子は火魔法を、水の魔粒子は水魔法を成立させる」
「これらは魔術学の基礎中の基礎であり、試験にも頻出する」
生徒たちは一斉にノートへ書き写した。
四属性。
エレメント。
試験範囲。
覚えるべき知識は、それだけだった。
だが、一人だけ違った。
ルシエはノートの余白へ、小さく文字を書き込む。
『なぜ』
魔粒子は、なぜ属性を持つのだろう。
魔素は未分化のエネルギー。
ならば、火、水、風、土という違いは、どこで生まれるのか。
教授は続ける。
「魔粒子の詳しい発生原理は、現在も解明されていない」
「諸君らは、まず四属性の性質を覚えなさい」
そこで講義は次の内容へ進んだ。
周囲の生徒も、特に疑問を抱く様子はない。
「ここは暗記だな」
「四属性を書ければ点は取れる」
そんな声が聞こえる。
しかし、ルシエだけは黒板を見つめ続けていた。
(解明されていない……)
(だったら)
(誰かが解明しなければならない)
魔素は世界の根源物質。
魔粒子は、その最小単位。
ならば――。
(本当に、魔粒子が先なんだろうか)
(魔素が先で、魔粒子は後から生まれるものなのでは……)
その考えは、まだ仮説にも満たない。
証拠もない。
実験方法すら思い付かない。
それでも、一度芽生えた疑問は消えなかった。
◇
授業が終わる。
ノエルは席を立ちながら、ルシエのノートを横目に見た。
ぎっしりと書き込まれた講義内容。
その余白には、さらに無数の矢印や疑問が並んでいる。
(また考えてるのか)
(あいつは、知識を覚えているんじゃない)
(知識を疑ってる)
ノエルは思わず苦笑した。
(……やっぱり面白い)
誰もが答えを覚える授業で。
一人だけ、問いを探していた。




