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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第29話 魔法医学

 翌日の講義は、魔法医学。


 教壇へ立った教授は、一枚の人体図を黒板へ映し出した。


 そこには、全身へ張り巡らされた魔力回路が描かれている。


「本日は、魔力回路と魔素汚染について学ぶ」


 教室の空気が少しだけ引き締まる。


「魔力回路とは、体内へ取り込んだ魔素を魔力へ変換する器官だ」


「通常であれば、魔素は魔力へ変換され、魔法として消費された後、再び自然へ還元される」


 教授は人体図の一部を指し示した。


「しかし、過剰な魔素を取り込むと、魔力回路が処理しきれず、未変換の魔素が体内へ蓄積することがある」


「これが魔素汚染だ」


 ルシエの表情がわずかに曇る。


「症状は、慢性的な疲労、発熱、魔力回路の痛み、臓器機能の低下……」


「進行すれば、命を落とすことも珍しくない」


 一拍置き、教授は静かに続けた。


「さらに、人間であっても、最悪の場合は魔物化する」


 教室がどよめく。


「魔王による魔素災害は、諸君らも知っているだろう」


「大量の魔素に汚染された人々が理性を失い、魔物と化した事件は、決して過去の伝承ではない」


「だからこそ、魔素汚染は現代医学最大の課題とされている」


 ルシエの胸が締め付けられる。


『ルシエ』


『そんな顔をしないで』


『お母さんは大丈夫だから』


 病室で優しく微笑む母の姿が脳裏によみがえった。


 その笑顔とは裏腹に、日に日に細くなっていく腕。


 苦しそうに息をする姿。


 ルシエはそっと拳を握る。


(違う)


(大丈夫なんかじゃない)


(お母さんは苦しんでる)


 教授の声が教室へ響く。


「残念ながら、現在の魔法医学では魔素汚染を完治させる方法は存在しない」


「治療は進行を遅らせる対症療法のみ」


「完全な治療法は、いまだ発見されていない」


 教室には重苦しい沈黙が流れた。


 しかし、ルシエだけは静かに前を見据えていた。


(絶対に見つける)


(治療法を)


(お母さんを助けるために)


 誰にも聞こえない、小さな決意。


 その想いだけは、誰よりも強かった。



 授業が終わり、生徒たちが席を立つ。


 ノエルは教壇近くでノートを読み返すルシエへ視線を向けた。


(あいつ……)


(やけに熱心だな)


(魔法が使えないから、その分、医学へ活路を見出そうとしているのか?)


 そう考えながらも、なぜか目が離せなかった。


 まだノエルは知らない。


 彼女が学び続ける理由は、自分のためではない。


 たった一人の、大切な母を救うためだということを。

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