第27話 魔法物理学
次の授業は、魔法物理学。
教壇へ立ったのは、中年の男性教授だった。
「魔法物理学では、魔法によって生じる熱、運動、圧力といった現象を学ぶ」
教授は黒板へ魔法式を書き始める。
「例えば火球魔法だ」
「魔力を多く流せば火球は大きくなり、威力も増す」
生徒たちは熱心にノートを取っていく。
ルシエも静かに式を書き写していた。
やがて教授は一通り説明を終え、教室を見渡す。
「質問はあるかね?」
ルシエがそっと手を挙げた。
「先生、一つよろしいでしょうか」
「ああ、構わない」
ルシエは黒板へ視線を向ける。
「この理論ですと、魔力を増やせば比例して威力も上昇することになります」
「ですが、高位魔法使いでも魔力だけでは説明できない事例が報告されています」
「魔法式の構造によって威力や効率が変化するのであれば、この式にはその要素が含まれていません」
教室が静まり返る。
教授は黒板を見つめる。
「…………」
数秒の沈黙。
そして苦笑した。
「ああ、すまないね」
「さすがルシエくん。ありがとう」
「確かに、その通りだ」
「この式は理解しやすいよう単純化したモデルだった」
「厳密には魔法式の完成度や制御精度も考慮しなければならない」
教授はそう言うと、黒板へ新たな式を書き加えた。
生徒たちは驚いたようにざわめく。
「教授が訂正した……」
「一年生だぞ?」
その様子を、一人の少年が興味深そうに眺めていた。
ノエル・アルヴィン。
入学試験で実技首席と呼ばれた少年である。
(面白い子だな)
(知識をひけらかしたいわけじゃない)
(純粋に、理論を正しくしたいだけなのか)
ノエルは初めて、ルシエ・フローレンスという少女へ興味を抱いた。




