第26話 魔法理論学
翌日。
最初の授業は、魔法理論学だった。
教壇へ立ったのは、白髪交じりの老教授。
理論学担当――アルベルト・ローエン。
魔法理論の第一人者として知られ、数々の論文を世に送り出してきた大魔法師である。
教室を見渡したアルベルトは、黒板へ一つの問いを書いた。
『魔法とは何か』
「さて、諸君」
「魔法学校へ入学した以上、誰もが魔法を知っているつもりだろう」
「では、答えてみなさい」
「魔法とは何だ?」
教室が静まり返る。
一人の男子生徒が手を挙げた。
「火や水を生み出したり、物を動かしたりする力です」
「なるほど」
別の生徒が続く。
「魔力を使って超常現象を起こす技術だと思います」
「それも一つの考え方だ」
アルベルトは静かに頷いた。
「どちらも間違いではない」
「では、ルシエ・フローレンスくん」
突然名前を呼ばれ、教室中の視線が集まる。
ルシエは静かに立ち上がった。
「魔法とは、魔素と魔力、そして魔法式によって引き起こされる超常現象そのものです」
「一方、魔術とは、その現象を解析し、再現し、制御し、社会へ応用するための学問と技術を指します」
「つまり、魔法は現象であり、魔術はその現象を扱う体系です」
教室が静まり返る。
ルシエは続けた。
「また、同じ魔法でも、魔法式の完成度によって威力や効率、安定性は大きく変化します」
「ですから重要なのは、魔力の多さではなく、魔法をどれだけ理解しているかだと考えます」
沈黙。
やがてアルベルトは、ゆっくりと口元を緩めた。
「……見事だ」
「教本を読んだだけでは、その答えには辿り着けない」
教室のあちこちから小さなどよめきが起こる。
「また知識自慢か」
「実技もできないくせに」
そんな声が聞こえても、ルシエは気に留めなかった。
席へ戻り、静かにノートを開く。
一方、アルベルトだけは彼女から目を離さなかった。
(面白い)
(この子は、答えを暗記しているのではない)
(理解した上で、自分自身の言葉として語っている)
(だからこそ、教本にはない視点へ辿り着けるのだ)
老教授は静かに微笑む。
その日。
アルベルト・ローエンは、一人の若き研究者と出会った。




