第17話 世界最高峰の学び舎
それから一年後――。
魔法研究国家アウローラ。
世界最高峰の魔術都市と称される王都には、今日も世界各国から多くの人々が訪れていた。
巨大な魔導時計塔。
街中を照らす魔導照明。
魔道具を積んだ輸送車が石畳を静かに走り抜ける。
ここでは、魔法は特別な力ではない。
人々の暮らしを支える技術として、街の隅々にまで根付いていた。
その中心に建つ、一際大きな建物。
王立魔法学校。
幾本もの白い塔を備えた壮麗な校舎は、王都の象徴とも言える存在だった。
正門の前には、歴代の賢者や大魔導師の銅像が並び、広場では世界各国から集まった新入生たちが期待に胸を膨らませている。
ルシエ・フローレンスは校門を見上げ、小さく息を吐いた。
「ここがお父さんも学んだ学校……」
父も、この門をくぐった。
同じ景色を見て、同じように胸を高鳴らせたのだろうか。
そう思うと、自然と背筋が伸びる。
緊張。
期待。
そして、決意。
ルシエは静かに校門をくぐった。
講堂では入学式が始まっていた。
壇上へ立った校長は、新入生たちを見渡しながら口を開く。
「諸君、入学おめでとう」
「王立魔法学校は、大賢者アドルフ・ヴァイスによって創設された、世界最高峰の魔術教育機関である」
講堂が静まり返る。
「本校には世界各国から学生が集う」
「ここで学び、多くの卒業生が賢者、大魔導師、魔導師として世界へ羽ばたいていった」
「諸君もまた、その一人となることを期待している」
大きな拍手が講堂へ響いた。
◇
式が終わると、担任教師によるオリエンテーションが始まる。
「まず一つ」
「本校で最初に覚えてもらいたいことがある」
教師は黒板へ二つの言葉を書いた。
魔法。
魔術。
「この二つは似ているようで違う」
教室中が静かになる。
「魔法とは、火を生み、水を操り、傷を癒やすといった超常現象そのものを指す」
「一方で魔術とは、その魔法を解析し、再現し、社会へ応用するための学問と技術だ」
教師は教室を見渡した。
「本校では魔法だけを学ぶわけではない」
「魔法理論」
「錬金学」
「魔法医学」
「魔法工学」
「魔法式学」
「魔粒子学」
「そのほかにも、多くの専門分野を学ぶことになる」
教室のあちこちから感嘆の声が漏れる。
「詳細は各授業で学んでもらう」
「今日は、この学校には多くの学問があるということだけ覚えておけばいい」
ルシエは静かに頷いた。
(だから私は、この学校へ来た)
魔法を使うためではない。
魔法を理解するため。
そして、人を救うためだ。
◇
説明が一通り終わると、教師は名簿を閉じた。
「本日の予定は以上だ」
「なお、明日は入学試験の成績発表と属性適性検査を行う」
「各自、時間に遅れないように」
教室がざわめく。
「いよいよ成績発表か」
「主席は誰なんだろうな」
「属性適性も緊張するな」
期待と不安が入り混じった声が飛び交う。
その中で、ルシエは窓の外へ視線を向けた。
春風が校庭の木々を静かに揺らしている。
(私は卒業する)
(研究者になる)
(魔法省魔法医学局へ入り……)
脳裏に浮かぶのは、病床で微笑んでいた母の姿。
(必ず、お母さんを救う)
その決意だけは、一年前よりもずっと強くなっていた。




