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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第16話 私がお母さんを救う

 夜。


 ルシエは、寝台へ横たわる母の細い手を握っていた。


 エレーヌは衰弱しながらも、娘へ穏やかに微笑む。


「そんな顔をしないで」


「あなたまで無理をしなくていいのよ」


 しかし、ルシエは首を横へ振る。


「でも……治療法がないって」


「今は、でしょう?」


 エレーヌは優しく答えた。


「あなたのお父さんも、昔は治せなかった病気を、いくつも治せるようにしたわ」


「研究というのは、まだ誰も知らない答えを探すことなのでしょう?」


 その言葉に、ルシエは顔を上げる。


「……私がお母さんを救う」


 少女の、無謀とも思える決意。


 それでもエレーヌは微笑んだ。


「ええ」


「楽しみに待っているわ」



 その夜。


 ルシエは父アルフォンスの書斎へ向かった。


 初めて入る部屋ではない。


 幼い頃から、父の目を盗んでは勝手に書斎へ忍び込み、本棚から専門書を引き抜いてはページをめくっていた。


 読めない言葉は辞書で調べる。


 父の真似をして、ノートへ書き写す。


 アルフォンスは、それに気付いていた。


 それでも叱らなかった。


 いつの間にか机の上には、幼いルシエでも読める入門書が置かれるようになっていた。


 父が亡くなった後も、ルシエは書斎へ通い続けた。


 父が見ていた世界を知りたかった。


 いつか父のような研究者になりたかった。


 書斎には今も、父が遺した本が並んでいる。


 魔法理論。


 魔法物理学。


 魔粒子学。


 魔法医学。


 魔法薬学。


 そして壁には、賢者にして紫色号を授かった父が生涯愛用した、ルーデル=カルテ製の長杖が静かに立て掛けられていた。


 だが、その日から。


 本を読む理由は変わった。


 父への憧れではない。


 純粋な知的好奇心でもない。


 母を救うためだった。


 分からない言葉があれば辞書を引く。


 理解できなければ、何度でも読み返す。


 一冊で分からなければ、別の本を開く。


 どこにも答えがないのなら、自分で見つけ出す。


 研究とは、まだ誰も知らない答えを探すこと。


 母の言葉は、ルシエの胸へ深く刻まれていた。



 それから一年後。


 ルシエ・フローレンスは、王立魔法学校へ入学する。


 ルシエの研究者としての人生は、父の書斎から始まった。


 だが、自らの研究で誰かを救うと決めたのは、この夜だった。

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