第14話 魔王亡き後
魔王ニコラス討伐。
その報せは、瞬く間に世界中へ広がった。
王都では鐘が鳴り響く。
街には歓声が溢れ、人々は通りへ飛び出した。
「終わった!」
「魔王が倒されたぞ!」
抱き合い、涙を流し、天へ祈りを捧げる者もいた。
千年。
あまりにも長かった恐怖の時代。
魔物に怯え。
故郷を奪われ。
家族を失い。
それでも生き続けてきた人々は、ようやく訪れた平和を心から喜んだ。
世界は五人の名を讃えた。
大聖女ミュゲ。
聖騎士アーサー。
暗黒騎士アデラーン。
学者クロエ。
エルフの魔術師サンセリテ。
世界を救った五人の英雄。
その名は歴史へ刻まれ、後の世まで語り継がれることとなる。
しかし。
歓喜の裏側で、誰も知らぬ異変が始まっていた。
魔王因子は破壊されたのではない。
魔王城地下の祭壇へ封印され、外界から隔離された。
その瞬間。
千年間続いていた第二の魔素循環は、突如として停止する。
これまで魔王城へ吸い寄せられていた膨大な魔素。
そして四属性の魔粒子。
その流れは一瞬にして行き場を失った。
世界を巡る魔素が乱れる。
魔素の流れが逆転する大地。
地下から高濃度の魔素が噴き出す森。
濃密な魔素霧に包まれる街。
魔素へ適応できず突然変異する動植物。
各地で急増する魔物。
そして。
人々の魔力回路までもが異常を起こし始める。
世界各地で、局地的な魔素災害が発生していた。
魔王を討てば、すべてが元へ戻る。
誰もが、そう信じていた。
だが現実は違った。
千年もの歳月をかけて歪められた世界は、魔王という支柱を失ったことで、その反動を一気に噴き出し始めたのである。
世界は救われた。
だが。
世界はまだ、壊れ続けていた。
その被害は、魔王領に隣接する魔法大国――アウローラ魔導国にも及ぶ。
王都から離れた、とある小さな町。
そこで、一人の少女が空を見上げていた。
後に世界の魔法理論を書き換えることになる少女。
ルシエ・フローレンス。
彼女の物語は、ここから始まる。




