第149話 世界の魔法理論を書き換える日
特別学会審査。
最終日。
王立魔法協会では。
無属性魔法。
新魔法作用理論。
魔素汚染治療術式。
三つの研究成果について。
正式な最終審査が行われていた。
審査されるのは。
魔法が発動したという事実だけではない。
理論に矛盾はないか。
他者が再現できるか。
安全性は十分か。
既存魔法との整合性は取れているか。
社会へ与える影響。
研究倫理。
患者本人の同意。
治療後の経過。
そのすべてが。
審査対象だった。
ルシエは。
魔法作用理論について説明する。
魔素と魔粒子。
それぞれの役割。
無属性魔法へ至る理論。
そして。
魔素汚染治療へ応用できる理由。
一つひとつ。
落ち着いて説明していく。
続いて。
ノエルが前へ出る。
生成魔素の制御方法。
実験手順。
再現実験。
術式の安定性。
共同研究によって積み重ねられた実証結果を。
資料とともに示した。
質疑応答が終わると。
今度は監修者へ確認が行われる。
最初に立ち上がったのは。
アルベルトだった。
「私は」
「理論と実験手順を確認した」
一度言葉を切る。
「だが」
「無属性魔法を発見したのは」
「ルシエ・フローレンスだ」
続いて。
ホルトンが口を開く。
「私は医学的審査を担当した」
「治療の安全性も確認した」
「だが」
「治療術式を完成させ」
「患者を救ったのは」
「この二人だ」
最後に。
フランソワが立ち上がる。
「私は」
「計算が合っているか確認しただけ」
「二人が作ったものを」
「私が作ったことにされるのは嫌かな」
会場に小さな笑いが広がる。
しかし。
その言葉で十分だった。
三人は。
監修者である。
研究者本人ではない。
その証言によって。
権威の名を借りただけではないことが。
正式に証明された。
続いて。
共同研究としての役割分担が整理される。
ルシエ・フローレンス。
問題の発見。
仮説の立案。
新魔法作用理論の構築。
無属性魔法体系の理論設計。
魔素汚染治療原理の確立。
研究全体の設計。
ノエル・アルヴィン。
生成魔素の実現。
高度な魔力制御。
実験の安定化。
第三者が再現可能な術式への完成。
治療時における同期操作。
理論の実用化。
審査員の一人が。
静かに口を開いた。
「ルシエ・フローレンスが」
「新しい道を見つけた」
「ノエル・アルヴィンが」
「誰もが歩ける道へ整えた」
その言葉に。
多くの研究者が静かに頷く。
二人の研究は。
一人の天才による奇跡ではない。
理論と実証。
互いの才能が噛み合った。
共同研究として完成していた。
やがて。
すべての審査が終了する。
議長が立ち上がった。
「異議はありますか」
静寂。
誰一人として。
声を上げる者はいなかった。
議長は大きく頷く。
「異議なし」
「よって」
「王立魔法協会は」
「本日付で」
「以下の研究成果を正式認定します」
一つ。
魔素と魔粒子の役割を分離した。
新魔法作用理論。
一つ。
世界初となる。
無属性魔法体系。
一つ。
同期生成魔素を用いた。
魔素汚染治療術式。
一つ。
エレーヌ・フローレンスへの臨床成功。
議長は続ける。
「なお」
「『火属性魔法を利用した冷房理論』については」
「査読制度上の都合により」
「正式審査は翌年度以降とする」
「ただし」
「本研究へ至る重要な先行研究として」
「協会記録へ残す」
ルシエは。
静かに目を閉じた。
あの日。
最後まで読まれなかった論文。
その研究は。
決して無駄ではなかった。
そして。
議長は最後に宣言する。
「本日をもって」
「王立魔法協会は」
「本理論を」
「現代魔法学の正式な学説として認定します」
その瞬間。
百年以上続いてきた魔法学は。
新たな一頁を書き加えた。
世界の魔法理論が。
書き換えられた日だった。




