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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第147話 届かなかった論文

 火属性冷房機の論文が提示されたことで。


 特別学会審査の会場は、さらに騒然となっていた。


 一人の研究者が口を開く。


「この論文は」


「なぜ王立魔法協会へ提出されていない」


 別の研究者も続く。


「これだけの実験記録がありながら」


「査読されていないのか」


 会場中の視線が。


 ルシエへ集まる。


 ルシエは一瞬だけ言葉に詰まった。


「それは……」


 その時だった。


 マイヤーが腕を組んだまま口を開く。


「教授査読で却下されたらしいがな」


 会場がざわめく。


「却下?」


「この内容をか?」


「誰が査読した」


「誰が却下したんだ」


 短い沈黙。


 やがて。


 一人の男が静かに立ち上がる。


 ギデオン・クラウゼ。


 会場の視線が一斉に集まった。


「私だ」


 その一言で。


 会場は静まり返る。


 ギデオンは。


 誰から促されることもなく話し始めた。


「私は」


「この論文を」


「一ページ目だけ読んだ」


 誰も言葉を発しない。


「そして」


「審査に値しないと判断した」


「実験記録を確認しなかった」


「第三者による再現も確認しなかった」


「実演も求めなかった」


 静かな声だった。


 だからこそ。


 重く響く。


 一人の研究者が立ち上がる。


「それは査読とは――」


 しかし。


 最後まで言わせなかった。


 ギデオンは。


 自ら深く頭を下げる。


「あれは査読ではなかった」


「私の過ちだ」


 会場は静まり返る。


「私は」


「自分の知識と合わないというだけで」


「論文を否定した」


「疑わしいからこそ」


「最後まで読むべきだった」


「信じられない結果だからこそ」


「確認すべきだった」


 ゆっくりと頭を上げる。


「今回提出された二本については」


「最後まで読み」


「査読を行った」


「その結果」


「王立魔法協会で審査されるに値すると判断した」


 その言葉に。


 誰も異論を挟まなかった。


 やがて。


 議長が静かに口を開く。


「火属性冷房機の論文については」


「制度上」


「本学会の正式審査対象とはしない」


 ルシエは静かに頷く。


 そのことは。


 最初から分かっていた。


「また」


「同一年度内の再提出も認められない」


 制度は。


 変わらない。


 だからこそ。


 議長は続けた。


「ただし」


「本論文は」


「無属性魔法へ至る先行研究として」


「参考資料に採録する」


「また」


「著者二名の研究能力を評価する資料として」


「本学会の審査記録へ添付する」


 その宣言に。


 会場から異論は出なかった。


 火属性冷房機の論文は。


 正式な査読論文にはならない。


 今年度中に。


 王立魔法協会へ届くこともない。


 それでも。


 この論文が。


 無属性魔法という研究へ至る原点であったことは。


 誰も否定できなかった。


 ルシエは。


 机の上に置かれた一冊の論文を見つめる。


『火属性魔法を利用した冷房理論』


 かつて。


 一ページ目だけで閉じられた論文。


 届かなかった論文。


 正式な学説としては。


 まだ。


 届いていない。


 それでも。


 この日。


 その研究の価値だけは。


 間違いなく。


 世界最高峰の研究者たちへ届いていた。

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