第145話 王立魔法協会
二本の論文は。
ギデオンの査読を終え。
正式に王立魔法協会へ提出された。
協会本部。
査読部門。
届いた論文を前に。
担当研究者たちは、静かに表紙を見つめていた。
『魔素直接変換による無属性魔法体系の構築』
『同期生成魔素を用いた魔素汚染治療術式と臨床結果』
著者。
ルシエ・フローレンス。
ノエル・アルヴィン。
監修。
アルベルト・ローエン。
ホルトン・ラヴォワジエ。
フランソワ・ラヴォワジエ。
「学生……だと?」
一人の査読者が眉をひそめる。
「監修者の間違いではないのか」
「いや」
「著者は二人になっている」
論文は開かれた。
最初に査読者たちの目を引いたのは。
一冊目。
無属性魔法についての論文だった。
四大属性へ属さない魔法。
魔粒子を媒体としない魔法体系。
外部魔素を術者固有の魔力へ直接変換する理論。
そして。
属性適性を持たない者でも使用できる可能性。
一人の研究者が、小さく息を漏らす。
「……これでは」
「従来の魔法作用理論が成り立たなくなる」
別の査読者も頷く。
「もし正しいなら」
「魔法学そのものを書き換える研究だ」
しかし。
騒ぎは、それだけでは終わらなかった。
二冊目の論文が開かれる。
『同期生成魔素を用いた魔素汚染治療術式と臨床結果』
魔素汚染。
魔法医学において。
長年、不治とされてきた病。
その治療法が。
論文として記されていた。
「理論だけではない……」
査読者の一人が、記録をめくる。
「臨床結果がある」
患者名。
エレーヌ・フローレンス。
治療前後の観測数値。
魔力回路の状態。
回収された魔素量。
治療中の経過。
治療後の回復記録。
そのすべてが。
詳細に記録されている。
部屋の空気が変わった。
「実証しているのか」
「机上の理論ではない……」
「本当に治療したというのか」
査読室では。
次第に意見が分かれ始める。
「学生が書いた論文だぞ」
「監修者の名前を借りただけではないのか」
「新たな魔法体系と」
「新たな治療法を」
「同じ二人が完成させたなど」
「あり得ない」
一方で。
別の研究者は静かに反論した。
「監修者を見ろ」
「アルベルト・ローエン」
「ホルトン・ラヴォワジエ」
「フランソワ・ラヴォワジエ」
「この三名が」
「自ら監修者として名を連ねている」
「軽い気持ちで署名する研究者ではない」
室内が静まり返る。
誰も。
三人の名を軽視することはできなかった。
理論。
医学。
計算。
それぞれの第一人者が。
自ら監修した論文である。
一人の査読者が口を開く。
「通常査読では」
「判断できない」
別の査読者も続く。
「内容が大きすぎる」
「もし誤りなら」
「魔法学と医学へ混乱を招く」
「もし正しければ」
「歴史が変わる」
結論は、一つだった。
王立魔法協会は。
通常の査読手続きを中断する。
そして。
高位研究者のみを集めた。
特別学会審査を開催することを決定した。
その日の午後。
二通の封書が作成される。
宛名。
ルシエ・フローレンス。
ノエル・アルヴィン。
王立魔法協会の紋章が刻まれた召喚状は。
二人のもとへ向けて発送された。




