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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第143話 今度は最後まで

 数日後。


 二本の論文は、ついに完成した。


 ルシエとノエルは。


 丁寧に製本された論文を抱え、教授棟を歩いていた。


 向かう先は、一つ。


 ギデオン・クラウゼ研究室。


 以前。


 火属性冷房機の論文が、一ページ目だけで却下された場所だった。


 研究室の前で。


 ルシエは一度だけ深呼吸をする。


「行きましょう」


「うん」


 コンコン。


「失礼します」


「入れ」


 二人は静かに部屋へ入った。


 机へ向かっていたギデオンが顔を上げる。


「ルシエ」


「ノエル」


「何の用だ」


 ルシエは一歩前へ出た。


「論文の査読をお願いします」


 そう言って。


 二冊の論文を机の上へ置く。


 ギデオンは表紙へ視線を落とした。


『魔素直接変換による無属性魔法体系の構築』


『同期生成魔素を用いた魔素汚染治療術式と臨床結果』


 火属性冷房機の論文ではない。


 制度上。


 新規研究として査読を受けられる論文だった。


 さらに。


 表紙の下には、監修者の名前が並んでいる。


 アルベルト・ローエン。


 ホルトン・ラヴォワジエ。


 フランソワ・ラヴォワジエ。


 ギデオンの視線が。


 一瞬だけ止まる。


 監修者だけではない。


 添付資料には。


 第三者による再現記録。


 治療前後の観測数値。


 回収した魔素量。


 安全装置の作動記録。


 実験条件。


 臨床経過。


 論文を支える膨大な資料が添えられていた。


 ギデオンの表情が。


 わずかに強張る。


 ルシエは。


 静かに論文を差し出した。


「今度は」


「最後まで読んでいただけますか」


 部屋が静まり返る。


 あの日。


 火属性冷房機の論文は。


 一ページ目だけで閉じられた。


 査読は。


 そこで終わった。


 長い沈黙が流れる。


 ギデオンは。


 言い訳をしなかった。


 過去を弁解することも。


 自分を正当化することもない。


 ただ。


 静かに二冊の論文を手に取る。


「読む」


 返ってきたのは。


 その一言だけだった。


 ルシエは小さく頭を下げる。


「よろしくお願いします」


 ノエルも続いて頭を下げた。


 二人は研究室を後にする。


 扉が静かに閉まった。


 部屋には。


 ギデオンだけが残る。


 机の上には。


 二冊の論文。


 そして。


 何百枚もの実験記録。


 ギデオンは。


 しばらく表紙を見つめていた。


 やがて。


 ゆっくりと一ページ目を開く。


 今度は。


 閉じなかった。


 静かな研究室に。


 紙をめくる音だけが、途切れることなく響き続けていた。

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