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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第139話 緊急治療

 夜。


 治療室。


 立ち会うのは。


 ルシエ。


 ノエル。


 アルベルト。


 ホルトン。


 フランソワ。


 五人だけだった。


 ルシエが。


 治療術式を担当する。


 ノエルが。


 同期率。


 魔素の流量。


 回収用魔水晶の状態を監視する。


 アルベルトは。


 術式全体を監督し。


 緊急遮断術式を担当する。


 ホルトンは。


 エレーヌの生命反応と。


 魔力回路の状態を診る。


 フランソワは。


 その補助を務めながら。


 身体の僅かな変化まで観測していた。


 寝台では。


 エレーヌが。


 浅く苦しそうな呼吸を繰り返している。


 顔色は青白く。


 呼び掛けにも。


 ほとんど反応はない。


 ホルトンが。


 静かに告げた。


「ルシエ」


「ここから先は」


「一つの判断の遅れが」


「命に関わる」


「分かっています」


「異常があれば」


「私の判断で治療を中断する」


「はい」


 アルベルトも。


 緊急遮断術式へ手を置く。


「成功だけを見るな」


「必ず」


「母親を生かして帰せ」


「はい」


 ルシエは。


 母の手をそっと握った。


「お母さん」


「始めます」


 エレーヌから。


 ごく少量の魔力を抽出する。


 弱く。


 途切れ途切れの魔力。


 それを基準として。


 自然魔素を中間領域へ取り込む。


「生成魔素」


「形成開始」


 ノエルが観測器を見つめる。


「患者魔力との感応」


「正常」


「必要量へ到達」


「自然界との接続を遮断します」


 外界との繋がりが断たれる。


 中間領域へ残された生成魔素を。


 エレーヌの自律神経へ接続した。


「同期開始」


 観測器の数値が揺れる。


 エレーヌの呼吸。


 心拍。


 その全てへ呼応するように。


 生成魔素も変化していく。


「同期率」


「上昇」


「八十」


「八十五」


「九十」


「同期」


「安定しました」


 淡い白色の生成魔素が。


 閉じた治療回路を通り。


 エレーヌの魔力回路へ。


 ゆっくりと流れ始める。


 だが。


 主要魔力回路の閉塞は。


 模擬実験で再現したものとは比較にならないほど。


 厚く。


 深く沈着していた。


「閉塞部」


「反応ありません」


 フランソワが報告する。


「同期生成魔素は届いてる」


「でも」


「沈着した魔素が動かない」


 その間にも。


 エレーヌの生命反応は。


 少しずつ低下していく。


「心拍低下」


 ホルトンが短く告げる。


「ルシエ」


「時間がない」


 流量を上げれば。


 閉塞部への作用は強くなる。


 だが。


 傷ついた魔力回路への負担も。


 それ以上に大きくなる。


 このままでは。


 閉塞が動き出す前に。


 エレーヌの身体が限界を迎えてしまう。


 ルシエは。


 母の魔力と。


 同期生成魔素の流れを見つめた。


「流量は上げません」


 アルベルトが問う。


「なら」


「どうする」


 ルシエは。


 迷うことなく答えた。


「同期の深度を」


「安全域の上限まで引き上げます」


 その言葉に。


 ノエルの表情が変わる。


「待って」


「それは危険だ」


「同期の深度を上げれば」


「術式は患者の変化を」


「今より遥かに強く受ける」


「少しでも状態が崩れれば」


「生成魔素も同時に乱れる」


「治療回路全体が不安定になる」


「はい」


 ルシエは。


 静かに頷いた。


「でも」


「力で押し流せば」


「お母さんの魔力回路は耐えられません」


 母の手を。


 強く握る。


「お母さん自身の流れで」


「閉塞を動かします」


「そのためには」


「もっと深く」


「お母さんと同期するしかありません」


 治療室に。


 重い沈黙が流れた。


 誰も。


 その危険性は理解している。


 だが。


 それ以外に。


 エレーヌを救う方法は残されていなかった。

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