第138話 お母さんに使わせてください
ルシエは。
完成した治療法について。
エレーヌへ説明していた。
その場には。
ホルトンとフランソワも立ち会っている。
ホルトンが。
静かに口を開いた。
「昨日の審査でも説明した通り」
「この治療法は」
「完全な安全を保証するものではない」
「閉塞が解除された瞬間」
「傷ついた魔力回路へ」
「予想以上の負荷が掛かる可能性がある」
「症状が悪化する危険もある」
「最悪の場合」
「命に関わる」
医師として。
研究者として。
感情を交えず。
事実だけを伝える。
ルシエも。
必死に気持ちを押さえながら続けた。
「それでも……」
「私は」
「お母さんを」
「助けたいんです」
その一言で。
張り詰めていた感情が溢れる。
「お母さんの病気を治したくて」
「私は」
「ずっと研究してきました」
「だから……」
「どうか」
「私に使わせてください」
エレーヌは。
優しく微笑む。
そして。
震えるルシエの頬へ。
そっと手を添えた。
「あなたが」
「私のために作ってくれた魔法なのでしょう?」
「はい……」
「それなら」
「私は信じます」
「魔法ではありません」
「あなたを」
ルシエの瞳から。
一筋の涙が零れ落ちた。
「ありがとう……ございます」
エレーヌは。
静かに頷いた。
「お願いします」
「先生」
ホルトンも。
深く頷く。
「必ず」
「最後まで責任を持とう」
その時だった。
突然。
エレーヌが激しく咳き込んだ。
「ごほっ……!」
「お母さん!」
呼吸が乱れる。
身体から力が抜け。
寝台へ崩れ落ちた。
ホルトンとフランソワが。
すぐに駆け寄る。
「フランソワ!」
「はい!」
二人は。
診察魔法を展開した。
しばらくして。
ホルトンの表情が険しくなる。
「……急激に進行している」
主要魔力回路の閉塞率が。
昨日の診察時よりも悪化していた。
自然魔素を。
自身の魔力へ変換する能力も。
急速に低下している。
ホルトンは。
静かに息を吐いた。
「昨日の時点では」
「まだ猶予があると判断していた」
「だが」
「状況が変わった」
「ここまで急変するとは……」
研究室に。
重い沈黙が流れる。
やがて。
ホルトンは決断した。
「予定を変更する」
「治療は」
「今夜行う」
ルシエは。
力強く頷いた。
「はい!」
ついに。
世界初の魔素汚染治療が。
始まろうとしていた。




