第136話 再現実験
完成した治療術式を用いて。
反復実験を行う。
アルベルト教授にも。
実験の監修を依頼した。
一回目。
同期生成魔素の形成。
閉塞解除。
余剰魔素の回収。
閉塞の解除には成功した。
しかし。
途中で流量が不安定になる。
安全機構が異常を検知し。
実験は緊急停止した。
同期生成魔素の供給は遮断され。
回路内に残った魔素は。
緊急回収用の魔水晶へ流れ込む。
模擬魔力回路への損傷はない。
アルベルトは。
停止記録を確認する。
「安全機構は正常に作動している」
「だが」
「流量の変化へ反応するまでが僅かに遅い」
二人は。
流量の上限値と。
検知間隔を修正した。
二回目。
流量は安定した。
だが。
魔水晶の容量計算に。
僅かな誤差が生じる。
容量限界へ達する直前。
安全機構が作動した。
同期生成魔素の供給を停止。
回収経路を。
予備の魔水晶へ切り替える。
余剰魔素は。
外部へ漏れることなく。
すべて回収された。
事故は起こらなかった。
「容量の限界値を」
「実測値より低く設定しろ」
アルベルトが告げる。
「計算上の限界まで使う必要はない」
「余裕を残すことも」
「安全機構の一つだ」
二人は。
魔水晶の交換基準を修正した。
三回目。
同期生成魔素の形成。
閉塞解除。
余剰魔素の回収。
逆流なし。
模擬魔力回路への損傷なし。
すべての工程が。
正常に完了した。
同じ条件で。
さらに二度。
実験を繰り返す。
結果は。
すべて同じ。
閉塞は解除され。
余剰魔素は回収される。
安全機構にも。
異常は確認されなかった。
だが。
それだけでは足りない。
ここまでの実験は。
術式を開発した。
ルシエとノエルが操作している。
術式の構造を熟知した二人だから。
成功した可能性も残っていた。
最後の実験。
ルシエとノエルは。
治療回路へ触れない。
操作を担当するのは。
アルベルト教授だった。
渡されたものは。
二人が作成した手順書と。
実験記録だけ。
ルシエは。
アルベルトの隣に立ちながら。
何も口にしなかった。
助言もしない。
修正もしない。
アルベルトは。
手順書を確認しながら。
治療回路を起動する。
患者本人の魔力に見立てた。
基準魔力を抽出。
自然界から魔素を取り込み。
基準魔力へ同期させる。
必要量へ達した時点で。
外界との接続を遮断。
形成された同期生成魔素を。
模擬魔力回路へ流す。
閉塞部分が。
僅かに揺れた。
沈着していた魔素が。
同期生成魔素の流れへ感応する。
閉塞は。
少しずつ崩れていく。
流れ始めた余剰魔素は。
排出用誘導路へ入る。
逆流防止術式を通過し。
回収用魔水晶へ流れ込んだ。
流量。
同期率。
魔水晶の容量。
模擬魔力回路の状態。
すべて正常。
やがて。
閉塞部分に残っていた魔素は。
完全に消えた。
逆流なし。
模擬魔力回路への損傷なし。
余剰魔素の回収も。
すべて成功。
アルベルトは。
治療回路を停止する。
そして。
実験結果を確認した。
「問題ない」
ルシエは。
小さく息を吐いた。
この術式は。
ルシエにしか分からない。
特別な感覚へ依存していない。
ノエルだけが持つ。
魔法の才能にも依存していない。
手順を守り。
条件を満たせば。
開発者ではない者でも。
同じ結果を再現できる。
ルシエは。
実験記録へ。
最後の一行を書き加えた。
『第三者による操作再現性を確認』
アルベルトは。
その記録を見つめる。
「これでようやく」
「個人の研究ではなく」
「誰かへ渡せる技術になった」
治療術式として必要な。
再現性。
その条件も。
ついに満たされた。




