第130話 模擬魔力回路
実験室。
いきなり。
エレーヌの身体へ。
完成したばかりの術式を使うことはできない。
ルシエとノエルは。
まず。
人体の魔力回路を再現した。
模擬装置を作ることにした。
「魔力回路の形だけを」
「再現すればよいわけではありません」
ルシエは。
机の上へ並べられた導魔管を見つめる。
「魔素が沈着し」
「流れを塞いでいる状態まで」
「再現する必要があります」
用意したのは。
太さの異なる複数の導魔管。
魔力回路の壁に近い性質を持つ。
特殊な魔導素材。
そして。
内部の魔素を観測するための測定器。
二人は。
導魔管を何本も繋ぎ合わせ。
人体の主要魔力回路に近い構造を作り上げた。
その内部へ。
高濃度の自然魔素を流し込む。
すぐには排出せず。
長時間。
同じ場所へ滞留させ続ける。
魔素は。
少しずつ。
導魔管の内壁へ沈着していった。
一部は厚い層となり。
管の内部を塞いでいく。
人工的な魔素汚染。
人工的な閉塞。
数日をかけて。
模擬魔力回路が完成した。
◇
ルシエは。
以前にエレーヌから抽出した。
ごく少量の魔力を術式へ流す。
中間領域へ。
自然魔素が集められる。
エレーヌの魔力と感応し。
同じ変化を続ける。
同期生成魔素。
「同期率」
「安定しています」
ルシエの報告を受け。
ノエルが模擬回路の入口を開いた。
「流量は」
「最小値から始める」
「はい」
淡い白色の生成魔素が。
導魔管の内部へ流れ込む。
入口部分。
異常なし。
逆流。
なし。
内壁との衝突も起きていない。
生成魔素は。
模擬回路の中を。
ゆっくりと進んでいく。
「閉塞部へ到達」
二人は。
観測器へ視線を向けた。
生成魔素は。
沈着した魔素の手前で滞留することなく。
僅かに残された隙間へ入り込んでいく。
閉塞部分を通過し。
回路の先へ流れていった。
術式は安定している。
逆流もない。
模擬回路への損傷も確認されない。
「通りました」
ノエルが小さく息を吐く。
「エレーヌさんの魔力に同期した生成魔素を」
「回路の中へ安全に流すことはできる」
「はい」
ルシエも頷く。
患者の身体に近い性質を持つ流れを。
魔力回路へ作ることはできた。
第一段階は。
成功。
だが。
ルシエの表情は晴れなかった。
「閉塞部の状態を確認します」
ノエルが測定器を操作する。
沈着した魔素の量。
閉塞している範囲。
内壁への癒着状態。
実験前の数値と。
一つずつ比較していく。
結果は。
全て同じだった。
沈着した魔素は。
まったく動いていない。
閉塞の厚さにも。
変化はなかった。
「流量を上げてみる?」
「いいえ」
ルシエは首を横へ振る。
「強い力で押し流せば」
「伝統魔法で外側から力を加えるのと」
「変わらなくなります」
「実際の魔力回路なら」
「損傷する可能性がある」
「ああ」
ノエルは。
閉塞部分を見つめた。
「安全に通せるだけでは」
「治療にはならない」
同期生成魔素を。
魔力回路へ流すことはできた。
だが。
長い時間をかけて。
内壁へ沈着した魔素は。
新しい流れが触れた程度では動かない。
ルシエは。
観測器に映る閉塞部分を見つめる。
「流すだけでは」
「駄目なんです」
患者の身体へ。
安全な流れを作る方法は完成した。
次に必要なのは。
その流れによって。
沈着した魔素そのものを動かす方法だった。




