第129話 患者自身の魔力
ルシエの家。
寝台では。
エレーヌが静かに横になっていた。
以前よりも。
眠っている時間が長くなっている。
呼吸も浅い。
大聖女ミュゲの治療によって。
一時は落ち着いていた症状が。
少しずつ戻り始めていた。
「お母さん」
「ごく少量だけ」
「魔力を採取させてください」
エレーヌは。
ゆっくりと目を開く。
「ええ」
「好きに使ってちょうだい」
「無理はさせません」
「本当に少しだけです」
ルシエは。
エレーヌの手へ。
小さな採取術式を重ねた。
淡い光が灯る。
魔力回路から。
ごく僅かな魔力が抽出され。
観測器へ送られていく。
◇
実験室。
観測器には。
エレーヌの魔力波が表示されていた。
弱い。
そして。
不規則に乱れている。
一定の周期を保てず。
何度も大きく揺らいでいた。
魔力回路の閉塞。
長年の魔素汚染。
衰弱した身体。
その全てが。
魔力波へ表れている。
ルシエは。
以前の観測記録と見比べた。
「前に測定した時より」
「さらに弱くなっています」
ノエルも。
観測器を見つめる。
「これほど乱れた魔力を」
「基準にできるのか?」
「確かめます」
ルシエは。
採取した魔力を。
中間領域へ流した。
周囲から。
ごく少量の自然魔素を集める。
エレーヌの魔力と。
自然魔素が感応する。
だが。
基準となる魔力波が乱れるたび。
生成魔素も。
同じように形を変えていった。
弱くなれば。
生成魔素も弱くなる。
周期が乱れれば。
生成魔素も同時に乱れる。
遅れはない。
ずれもない。
固定された波を。
無理に維持しようとしているのではない。
エレーヌの魔力と。
同じ変化を続けている。
ノエルの表情が変わった。
「乱れていても」
「同期は崩れていない」
「はい」
「私たちが作るのは」
「正常な魔力ではありません」
「お母さんの今の魔力と」
「同じように変化する魔素です」
「でも」
ノエルは。
観測器に表示された。
小さな波を指差す。
「基準となる魔力そのものが」
「これほど弱い」
「弱くても構いません」
必要なのは。
強い魔力ではない。
乱れのない。
整った魔力でもない。
患者本人の身体が。
自分のものだと認識できる。
その人固有の変化。
「必要なのは」
「強さではありません」
「お母さん自身の魔力であることです」
観測器の中で。
二つの魔力波が。
同じように揺れている。
弱く。
不安定で。
それでも。
確かに。
エレーヌだけが持つ魔力だった。
治療に必要な基準は。
手に入った。




