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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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127/161

第125話 同期理論

 翌朝。


 実験室。


 ルシエは黒板の前へ立った。


「まず」


「昨日の話を整理しましょう」


 白いチョークを手に取る。


 大きく二つの言葉を書いた。


 完全複製 ×


 同期 〇


 ノエルも静かに頷く。


「マイヤー先生は間違っていない」


「完全複製なら」


「完成まで数十年かかる」


「でも」


「前提そのものを変えればいい」


 ルシエは新しい紙を机へ広げた。


「私たちが目指すべきなのは」


「複製ではありません」


「同期です」


 さらに。


 黒板へ四つの項目を書き加える。


 一、同期領域


 二、生成魔素の保存


 三、自律神経との同期


 四、安全機構


「この四つが完成すれば」


「理論は成立します」



「まず」


「最初の課題です」


 ルシエは魔法陣を書き始めた。


「自然界の魔素は」


「術者だけに影響されているわけではありません」


 ノエルが続ける。


「周囲の魔素とも」


「常に感応している」


「その状態で術者と同期させても」


「外部の影響を受け続ける」


 ルシエは事故記録へ視線を落とした。


「性質が少しでも変化すれば」


「また同じ事故が起こります」


「なら」


 新しい円を描く。


「術者と自然界を」


「直接繋げなければいいんです」


 さらに。


 二つの円の間へ。


 もう一つ、小さな円を書き加えた。


「中間領域……」


 ノエルが呟く。


「はい」


「自然界から取り込んだ魔素は」


「一度、この領域へ送ります」


「ここで術者の魔力と感応させ」


「必要量が集まった時点で」


「自然界との接続を遮断します」


 ノエルの表情が変わった。


「そうか」


「そうすれば」


「生成した魔素は」


「外界の影響を受けない」


「はい」


「完全に独立した状態になります」


 ルシエは。


 黒板の一つ目へ、小さく印を付けた。


 一、同期領域 ✓


 ノエルは腕を組む。


「でも」


「保存しただけでは」


「また時間とともにずれていく」


「結局」


「古い魔力になる」


 実験室が静まり返った。


 二人の脳裏に。


 昨日のフランソワの言葉が蘇る。


『一緒に変わるようにすればいいんじゃない?』


 ルシエは顔を上げた。


「固定する必要はありません」


「生成魔素そのものを」


「術者と同期させます」


 新しい術式を書き始める。


「人の身体は」


「心拍」


「呼吸」


「体温」


「疲労」


「感情」


「様々な情報を」


「自律神経が制御しています」


 ノエルも隣から式を書き足した。


「つまり」


「魔力の変化も」


「自律神経と深く結び付いている」


「なら」


 ルシエは魔法陣の中心へ。


 新たな回路を描く。


「生成魔素も」


「同じ自律神経へ接続します」


 ノエルが計算式を整理していく。


「術者の身体が変化した瞬間」


「術者の魔力と」


「生成魔素が」


「同時に変化する」


「観測は不要」


「再演算も不要」


「複製も不要」


「必要なのは」


「同期だけだ」


 ルシエは静かに息を呑んだ。


「これなら」


「追いかける必要がありません」


 黒板へ。


 さらに二つの印が加わる。


 二、生成魔素の保存 ✓


 三、自律神経との同期 ✓



 二人は無言で術式を書き続けた。


 昨日まで壁を埋め尽くしていた補助術式。


 複雑な補正式。


 膨大な観測式。


 一つ。


 また一つと消えていく。


「ここも不要です」


「ああ」


「この補正式も削れる」


 紙の上が。


 少しずつ整理されていく。


 複雑だった魔法陣は。


 逆に。


 美しく洗練されていった。


 だが。


 ルシエの手が止まる。


「……まだ終わりではありません」


「同期が途切れた瞬間」


「生成魔素は」


「再び異物になります」


 ノエルも静かに頷いた。


「最後は」


「安全機構だ」


「同期率が一定以下になれば」


「即座に接続を遮断する」


「それだけでは足りません」


「生成魔素が暴走した場合に備えて」


「術者と魔法陣を」


「瞬時に切り離す機構も必要です」


「ああ」


「逆流を防ぐ術式もいる」


 ルシエは新しい紙を取り出した。


 黒板には。


 最後の一項目だけが残されている。


 四、安全機構 □


 ルシエは。


 その文字を静かに見つめた。


「あと一つです」


 ノエルは微笑む。


「ああ」


「初めて」


「ゴールが見えた」


 昨日までの焦りは。


 もうそこにはなかった。


 二人は再びペンを走らせる。


 世界初の無属性魔法。


 その完成へ向けて。


 理論は。


 確実に形になり始めていた。

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