第122話 残された時間
数日後。
エレーヌの容体が、再び悪化した。
大聖女ミュゲの治療によって。
一時的に体内の魔素濃度は低下していた。
だが。
主要な魔力回路の奥深くへ残った魔素は消えていない。
それは静かに。
再び周囲の魔素を引き寄せ始めていた。
胸を締め付けるような痛み。
乱れる呼吸。
高熱。
そして。
魔力回路を蝕む激痛。
症状は。
少しずつ。
治療前の状態へ戻り始めていた。
「そんな……」
ルシエは言葉を失う。
担当医は静かに首を横へ振った。
「次に大きく悪化した場合」
「同じ治療に、身体が耐えられる保証はありません」
部屋が静まり返る。
ルシエは眠る母の手を強く握った。
冷たい。
あの日より。
少しだけ冷たく感じた。
無属性魔法を完成させなければならない。
一日でも早く。
一時間でも早く。
だが。
焦れば。
また同じ事故を起こす。
ノエルを。
もう一度危険な目に遭わせるかもしれない。
時間がない。
だから急がなければならない。
けれど。
急げば、誰かを傷つける。
安全を優先すれば。
母を救う時間がなくなる。
二つの現実が。
ルシエの胸を締め付ける。
「どうすれば……」
答えは出ない。
残された時間だけが。
静かに減り続けていた。




