第118話 似すぎた魔力
翌日。
研究室には。
アルベルト教授と、王立医療院から招かれた治療術師が立ち会っていた。
「本日は、安全確認を最優先とします」
アルベルトが静かに告げる。
「少しでも異常を感じたら、直ちに実験を中止しなさい」
「はい」
ルシエとノエルは頷いた。
実験の目的は。
外部魔力回路で生成した力が、本当に魔力として利用できるかを確かめることだった。
まずは。
ごく小さな発光術式へ供給する。
それだけの実験である。
ルシエは外部魔力回路を起動した。
器具の中へ集められた魔素が。
ゆっくりと変化していく。
観測器が示す一致率は。
九十五。
九十七。
九十九。
そして。
百。
「変換完了です」
器具の内部には。
ノエル固有の魔力と区別できない力が存在していた。
ルシエはゆっくりと術式を接続する。
「供給開始」
変換された魔力が。
細い流れとなって発光術式へ送り込まれる。
一秒。
二秒。
三秒。
魔法陣が淡く輝く。
次の瞬間。
部屋の中央へ、小さな光が灯った。
成功だった。
誰の魔力回路も使わず。
外部で生成した魔力だけで。
魔法が発動した。
「成功……」
ルシエが呟く。
ノエルも思わず笑う。
「本当に……」
「できた」
アルベルトも驚きを隠せない。
「まさか、本当に人体を介さず魔法が……」
治療術師も観測器を見つめたまま言葉を失う。
研究室に。
安堵が広がる。
その時だった。
「……?」
ルシエが観測器の一点を見つめる。
魔力波が。
僅かに乱れている。
「同期率が……」
九十九・九八。
九十九・九七。
ほんの僅か。
だが。
徐々にずれ始めていた。
「基準波が減衰しています」
「少しだけ補正します」
ノエルは。
自分の魔力を、ごく僅かだけ追加する。
基準となる魔力が。
外部魔力へ触れる。
その瞬間。
観測器が赤く染まった。
「え……?」
外部魔力は。
ノエルの魔力と、あまりにも似すぎていた。
混入を防ぐ安全術式は。
異なる魔力だけを遮断する。
だから。
ノエルの魔力を。
異物として認識できなかった。
「通った……?」
ルシエの顔から血の気が引く。
安全術式を。
すり抜けた。
二つの魔力は。
ほぼ同じ波を持っていた。
だが。
完全には一致していない。
僅かな周期。
僅かな位相。
僅かな揺らぎ。
その違いだけが。
術式の中で重なり合う。
そして。
共鳴した。
「共振しています!」
ルシエが叫ぶ。
魔法陣全体が激しく明滅する。
観測器の数値が跳ね上がる。
「ノエル!」
「接続を切ってください!」
ノエルは即座に魔力供給を止めた。
だが。
もう遅かった。
増幅した力は。
基準波を供給するための接続を逆方向へ駆け上がる。
本来。
魔力回路を守るための外部魔法式。
その経路が。
今度は逆流路となった。
「逆流しています!」
治療術師が叫ぶ。
「遮断を!」
アルベルトが緊急停止術式を展開する。
しかし。
暴走した力は。
それより速かった。
変換途中の魔素と。
共振によって暴走した魔力が。
一気にノエルの体内へ流れ込む。
「ぐっ……!」
ノエルの身体が、大きく震えた。




