第117話 同じ魔力
二人は。
ノエルの魔力が持つ波を、精密に測定する。
周期。
振幅。
強弱。
位相。
揺らぎの幅。
観測できる、すべての要素を記録する。
そして。
その波を。
魔法式によって、外部から集めた魔素へ伝える。
術式が起動した。
魔素が。
ゆっくりと揺れ始める。
最初は。
ばらばらだった揺らぎが。
少しずつ。
ノエルの魔力と同じ周期へ揃っていく。
密度。
流速。
内部配列。
そして。
魔力波。
観測器が示す数値は。
一つ、また一つと。
ノエルの魔力へ近づいていった。
「一致率……九十七」
ルシエが息をのむ。
「九十八」
「九十九……」
観測値は、さらに上昇する。
「百パーセントです」
研究室が静まり返った。
ルシエは。
もう一度、観測器を確認する。
測定誤差。
術式異常。
魔素濃度。
すべて正常。
どの項目を見ても。
器具の中に存在する力は。
ノエル固有の魔力と区別できなかった。
「成功……」
ルシエが小さく呟く。
「したのか?」
ノエルも観測器を見つめる。
表示されている数値は。
どれも、ノエル自身の魔力と一致していた。
魔素から。
術者固有の魔力と、ほぼ同じ性質を持つ力を生み出す。
それは。
外部魔力回路の完成へ向けた、決定的な一歩となるはずだった。
二人は。
しばらく言葉を失う。
やがて。
ルシエが、机の上に置かれた古びた写本へ目を向けた。
『生きる者の内を巡る力と』
『天地に満ちる魔素は、異なるものにあらず』
『内なる魔素が命の律を得る時』
『外なる魔素もまた、その律へ応ずる』
ルシエは。
その一文を静かに読み上げる。
「……本当だった」
「サイオスは」
「本当のことを書いていたんですね」
ノエルも、ゆっくりと写本を見つめた。
「五百年前の人間だぞ」
「現代じゃ」
「誰も証明できなかったことを」
「もう知っていたのか」
魔力と魔素は。
互いに応じ合う。
命の律という現象も。
外部魔力回路という発想も。
その萌芽は。
五百年前には、既にサイオスの研究へ辿り着いていた。
「大賢者……」
ルシエは自然と笑みを浮かべる。
「五百年も前に」
「ここまで辿り着いていたなんて」
尊敬と。
驚きが入り混じる。
もし。
サイオスの記録が残されていなければ。
二人は。
今も同じ場所で立ち止まっていたかもしれない。
ようやく辿り着いた。
二人は、そう思った。
だが。
その成功は。
観測器が見せた、幻想に過ぎなかった。




