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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第10話 決死の陣

 クロエは、四人を見渡した。


「作戦を伝える」


 張り詰めた空気の中、誰一人として口を挟まない。


「最初はサンセリテじゃ」


「古代魔術によって、魔王城から魔王因子へ流れ込む魔粒子を、一瞬だけ止める」


 サンセリテは静かに頷く。


「できます」


「次じゃ」


 クロエはアデラーンへ視線を向けた。


「供給が止まった瞬間、おぬしが魔王因子と肉体を繋ぐ魔力回路を、一本残らず断ち切る」


 アデラーンは魔王因子を見据える。


「……全部か」


「一本でも残れば、再接続される」


 クロエは静かに答えた。


「しかも、回路は数え切れぬほど枝分かれしておる」


「通常の剣では届かぬ」


 重い沈黙が流れた。


 誰もが理解していた。


 どれほど技を磨こうと。


 どれほど速く剣を振ろうと。


 人の技では届かない。


 その時だった。


 ニコラスがゆっくりと両手を広げる。


「相談は終わったか」


 漆黒の魔法陣が無数に展開された。


 闇の槍。


 闇の刃。


 闇の奔流。


 玉座の間を埋め尽くすほどの闇魔法が、一斉に五人へ襲い掛かる。


「来るぞ!」


 アーサーが前へ飛び出した。


 光の魔法剣が閃き、闇を次々と分解していく。


 しかし、数が多すぎる。


 分解し切れなかった闇が押し寄せる。


「聖光結界!」


 ミュゲが最大出力の結界を展開した。


 轟音。


 玉座の間が激しく揺れる。


 結界には無数の亀裂が走り、悲鳴を上げるように軋んだ。


 サンセリテも魔粒子への干渉を続けながら、防御魔術を展開する。


 だが、押し返せない。


 闇は次から次へと押し寄せてくる。


 五人は完全に防戦一方だった。


「このままでは……!」


 ミュゲの頬を汗が伝う。


「討伐どころではありません!」


 クロエは歯を食いしばる。


(間に合わぬ……)


 作戦は完成した。


 だが、実行へ移る時間がない。


 封流を発動する前に押し潰される。


 誰もがそう思った、その瞬間だった。


 アデラーンが静かに前へ出る。


「俺が道を開く」


 その構えを見た瞬間。


 アーサーの表情が凍りついた。


「待て、アデラーン!」


「その構えは……!」


 長年の戦友だからこそ分かる。


 魔剣流宗家にのみ伝わる禁断の奥義。


「……決死の陣か」


 アデラーンは振り返らない。


「他に方法はない」


「馬鹿を言うな!」


 アーサーが怒鳴る。


「その技を使えば、お前は――」


「死ぬ」


 アデラーンは静かに言葉を継いだ。


「分かっている」


 その声は、驚くほど穏やかだった。


「だが」


 魔剣を構える。


「俺にしか、この道は切り開けない」


 誰も言葉を返せなかった。


 決死の陣。


 術者の生命そのものを魔力へ変換し、一瞬だけ人の限界を超えた力を得る、魔剣流最大最強の奥義。


 放った時点で、生還は望めない。


 ニコラスは五人の狙いを察したように笑う。


「面白い」


「ならば、その命ごと潰してやろう」


 闇がさらに膨れ上がる。


「始めるぞ!」


 クロエが叫ぶ。


 アーサーが前へ出る。


 光の魔法剣が闇魔法を斬り裂き、仲間への道を切り開く。


 ミュゲは聖光結界を限界まで維持し続ける。


 サンセリテは精霊眼を最大まで開いた。


 世界を流れる魔粒子が見える。


 塔。


 地下通路。


 柱。


 城壁。


 魔王城全体を巡る、無数の魔粒子。


 そのすべてを、一つの術式へ収束させる。


「古代魔術――封流」


 巨大な魔法陣が魔王城全体を覆う。


 四属性の魔粒子が、一斉に停止した。


 魔王因子へ流れ込んでいた供給が――止まる。


「今じゃ!」


 クロエが叫んだ。


 アデラーンは静かに目を閉じる。


「……さらばだ」


 漆黒の魔力が全身から溢れ出す。


 体温が失われる。


 血液が魔力へ変わる。


 鼓動が止まり始める。


 生命そのものが、一振りの魔剣へ集束していく。


 誰よりも濃く。


 誰よりも深い。


 漆黒の魔力。


「魔神剣――」


 一歩、踏み込む。


「決死の陣」


 その瞬間。


 世界から音が消えた。


 ニコラスの視界から、アデラーンの姿が掻き消える。


「な――」


 一閃。


 その剣は肉体を斬らない。


 魔王因子とニコラスを繋ぐ、無数の魔力回路だけを斬り裂く。


 一本。


 二本。


 百本。


 千本。


 万本。


 数え切れぬ魔力回路が、一瞬ですべて断ち切られた。


 ニコラスの胸が大きく裂ける。


 黒い人工魔核――魔王因子が、その身体から引きずり出された。


「馬鹿なッ!」


 ニコラスが初めて絶叫する。


 魔王因子と肉体。


 二つは、完全に分離した。


 その瞬間。


 アデラーンの身体から力が抜けた。


 握っていた魔剣が床へ転がる。


 膝をつき。


 ゆっくりと前へ倒れる。


 生命のほとんどを使い果たした英雄は、その場へ静かに崩れ落ちた。


 だが、その命懸けの一閃は、不死と呼ばれた魔王へ初めて届いた一撃だった。

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