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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第110話 命の前借り

 医務室。


 実験を終えたルシエは、寝台へ横になっていた。


 隣では。


 学校付きの治療術師が、診断用の魔法式を展開している。


 淡い光が、ルシエの全身を包み込み。


 魔力回路の状態が、術式の上へ映し出された。


 やがて。


 治療術師は深く息を吐く。


「……あなたたちは」


 静かな声だった。


 だが。


 そこには抑えきれない怒りが滲んでいた。


「本当に、馬鹿なのですか?」


 部屋が静まり返る。


 ルシエも。


 ノエルも。


 何も言えなかった。


「これは研究ではありません」


「自殺行為です」


 治療術師は、二人を見据える。


「通常の魔法は」


「術者固有の魔力を燃料として、体外で魔法式を制御します」


「ですが」


「あなたたちが行ったのは、その大前提を無視した実験です」


 机の上へ置かれた実験計画書を指差す。


「燃料の原料を大量に飲み込み」


「自らの臓器を、燃料精製所として限界まで稼働させる」


「そんなことを、人為的に行ったのです」


 治療術師は首を横へ振る。


「今回は幸運でした」


「取り込んだ魔素が、ごく微量だったこと」


「そして」


「四大属性への適性が、ほとんど存在しなかったことです」


 一拍置いて。


 静かに告げる。


「もし体内で属性魔粒子まで反応していたら」


「私は今、治療ではなく、検死をしていたかもしれません」


 ルシエは、唇を噛んだ。


 ノエルも。


 何も言い返せない。


 アルベルトもまた。


 腕を組んだまま、黙って話を聞いていた。


 診察を終えた治療術師は。


 改めて診断結果を告げる。


「もっとも」


「あなたの魔力回路が、特別に弱いわけではありません」


 ルシエは顔を上げる。


「今回確認されたのは」


「魔力回路全体へ生じた、無数の微細な損傷です」


「後遺症が残るほどではありません」


「数日間、安静にしていれば回復するでしょう」


 しかし。


 治療術師の表情は厳しいままだった。


「鍛錬を積んでいない人間が」


「意図的に魔素の取り込みと変換を加速させれば」


「誰が行っても、同じ結果になります」


 魔法が苦手だからではない。


 四大属性への適性がないからでもない。


 暗黒という技術そのものが。


 普通の人間には耐えられない負担を与えるのだ。


 アルベルトが、静かに口を開く。


「つまり」


「暗黒とは」


「生物が本来なら長い時間をかけて行う生命活動を」


「戦闘中に、無理やり前倒ししている技術ということか」


 治療術師は頷く。


「その通りです」


「未来の自分が、何時間も、何日もかけて処理するはずだった魔素まで」


「一瞬で体内へ取り込み」


「魔力へ変換している」


「身体は、その代償を必ず支払います」


 ルシエは、小さく呟いた。


「命の前借り……」


 暗黒は。


 取り込み。


 変換。


 変換した魔力の保持。


 出力の制御。


 そのすべてを。


 術者自身の肉体へ押しつけている。


 だからこそ。


 長年の鍛錬を積んだ魔剣流習得者だけが扱える秘伝だった。


 暗黒の構造について立てた仮説は。


 正しかった。


 そして。


 人体を変換器として使う方法は。


 無属性魔法へ採用できないことも。


 今回の実験によって、証明された。


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