66話 力の差
その出来事は、唐突に起こった。
いつも通り、アイズと共に、貧民街を調査していた。
その時…
「おう、俺らのシマを嗅ぎまわってるのって、おたくらだよな?」
「っ!?誰だ!!」
どういうことだ?
こんなに近付かれているのに、話しかけられるまで、気が付けなかった!
そこに立っていたのは、軽鎧を装備し、黒いフードを被った男だった。
「名乗る気は無い。質問に答えてもらおうか…」
こいつ、この貧民街を根城にする犯罪組織の奴か?
犯罪組織の奴らなら、正直に答えるのが正解だろう。
だが、その確証がない以上、下手に答えるのはまずい。
だがどうする?
俺に気配を一切感じさせなかったこいつは危険だ。
恐らく、逃げることは難しい。
格好から判断するなら、こいつは俺と同業だ。
俺なら、話しかけるときは絶対に逃げられない距離まで詰めてから話しかける。
となると、既に退路は断たれていると考えていいだろう。
「……どうする?」
隣からアイズが話しかけてくる。
見ると、歯を食いしばり、顔をしかめている。
その首筋には、冷や汗が浮かんでいた。
アイズもこの状況のまずさを察しているんだろう。
こうなった以上、逃げられないと思ったほうがいい。かといって、素直に話すのは間違いなく悪手だ。
となると残った選択肢は…
「俺が時間を稼ぐ。アイズは逃げて、カルラたちにこの状況を知らせてくれ」
俺は風属性魔術で、アイズにだけ聞こえるよう言った。
アイズは男に悟られないよう、小さく頷いた。
そして俺は、暗殺者めいた男に向き直り、答えた。
「そんな風に言われて素直に答えるわけがないだろう」
「……なるほど。そうか…では力ずくだな。悪く思うな」
そう言って男はナイフを構えた。
だよなぁ…
俺もナイフを取り出し、構える。
この手の奴は後手に回ったら手が付けられない。
なら、先手を取り続けるしかない。
俺は男との距離を高速で詰める。
それとほぼ同時に、アイズの水属性魔術が発動する。
アイズの姿が空気中に溶けたように消える。
よし、ひとまずアイズは逃げられそうだ。
この魔術を使ったアイズを捉えるのは俺でも困難だ。
そして、俺は男に向けてナイフを突き立てようとするが…
そこに男の姿はなかった。
ちくしょう!今度は消えやがった!
さっきまで、確かにここに気配があった。
それが一瞬で、消えた。
「キャッ!」
背後からアイズの悲鳴が聞こえてくる。
バカな!
そう思い振り返ると、そこには倒れて気を失っているアイズと、その傍らに佇む男の姿があった。
「こんな小細工で逃げられると思われたのは心外だな…」
クソッたれ!この俺が囮にすらなれないとは!
最早逃走は不可能。
だが、ただで捕まってやるわけにはいかない。
せいぜい悪あがきさせてもらおう。
そうして、俺は持てる手段のすべてを用いて、戦いを挑んだ。
しかし、大した傷を与えることもできず、俺の意識は闇に沈んだ。




