64話 勇者と酔っ払い
魔王カルラの生まれ故郷に向かって旅を始めてしばらく経った。
俺は勇者として、辺境の町の見学という名目で、一見だらしない恰好の神官であるヒルファと旅をしていた。
もちろん、真の目的は見学では断じてない。
レイジア教の真実を知るためだ。
しかし…このヒルファとかいうおっさんも相変わらずだ。
酒瓶は基本手放さず、常に飲んでいる。
町を歩くときも…馬車に乗ってるときでも…
…おい、それでいいのか聖職者…
「…なあ、ヒルファさん…常に酒を飲むのはどうかと思うんだが…その…身体にも悪いんじゃ…」
「ああ? 馬鹿言っちゃいけねえよアラタ、酒は神が与えたもうた神聖な飲み物なんだぞ?それを好きなだけ飲んで何が悪い」
な、なんて暴論だ…
っていうか、こいつ無神論者のクセに自分に都合がいいように神という概念を利用してやがる!
なんて聖職者だ!
「な、なんていうか、凄いな、ヒルファは…なんであんたがレイジア教の神官をやってるのかわからないがな」
「…なんで…か…。簡単だ。その方が人を助けやすいからだ。俺がレイジア教をどう思っていようが、この虚像だらけの宗教でも、人々を助けるための広告塔として使えるんだ。だから、利用してるってところか」
…なるほど。
真実はどうあれ、世界を股にかける宗教なんだから、その立場を人を助ける方向に向けてるのか。
…やっぱりこの人は他の神官たちとは違う。
だが、聞かなければいけないこともある。
神殿から遠く離れた今なら聞ける。
「そういえば、今更だが、なんで魔王カルラの生まれ故郷の場所を知ってるんだ?もしかして、知り合いだったり?」
「ん?ああ、言ってなかったか?知り合いだよ。今となっては大体一年前か?いや、もっとか?俺が赴任する辺境の教会がある街にあいつがやってきてよ。身分証もねえ、路銀もねえ、ってんで、あまりにも可哀そうでなぁ。俺が金を貸して町に入れてやったのよ」
な…。本当に知り合いだったとは…
っていうか、身分証も路銀も持ってないってどんな状況なのさ…
町に入る前に通行税とかが必要だって、想像つかなかったのか?
…いや、辺境の村育ちだと、その辺の常識が身につかないってこともあり得そうだ。
「俺も、カルラの口から聞いたのさ。レイジア教が企んでることをな…いまは、その証拠を探しに向かってるってところだな」
「あの、ヒルファ、レイジア教が企んでいることって一体なんだ?」
先ほどからヒルファが口にするレイジア教の真実。
俺はその詳細を一切、聞かされていない。
「ああ、すまん、言い忘れてた。教えてやろう」
そうして始まったヒルファの話。
それは、魔王の過去と、レイジア教の企みについての話だった。
カルラが魔王になる前は、ごく普通の村人だったことにも驚いた。
そして聞かされる、レイジア教による”感情を鎮静化する儀式魔術”。
…なんてことだ…これが本当だとしたら、とてもじゃないが、レイジア教なんて信じる価値はない!
「ま、まさか…レイジア教がそんなことを…じゃあ、カルラの家族たちは、ただの口封じのためだけに…火あぶりにされたって言うのか…そんなのって…」
「ひでぇ話だよな。カルラは、その怒りによって、炎に焼かれながら魔人に変異したらしい。さあ、多分もうすぐだ。その話を裏付ける証拠が残っていればいいがな!」
そうして歩いていると、はるか遠くに焼け焦げた家屋のような建物と、無数に並ぶ墓石のようなものが見え始めた。




