05話 偽りの浄化
村の中央。
即席で組まれた台に、俺たちは
縛り付けられていた。
乾いた木材の感触。
その上に重ねられた薪。
火あぶり。
木材に括られて足元に火を起こして
罪人を焼く処刑法。
前世での世界史の授業で聞いたことはあるが…
現実だとは、まだどこかで信じられなかった。
「落ち着いてください」
神官の声が、穏やかに響く。
「これは浄化の儀です」
まるで祝福でもするかのような口調。
ふざけている。
俺たちが何したってんだ。
いや、こいつらにとっては関係ないんだったな。
「やだ……やだよぉ……」
隣で、ネリアが震えている。
小さな身体が、縄に引きずられるように
縛られている。
「お兄ちゃん……こわいよ……」
その声が。
心臓を直接、握り潰すように響いた。
「……ネリア」
声をかける。
できるだけ、優しく。
「大丈夫だ」
嘘だ。
そんなこと、分かっている。
でも、言わないといけなかった。
「……お兄ちゃん、いっしょにいる?」
小さな声。
「……ああ」
頷く。
縄に縛られたまま、身体を寄せる。
届く範囲で、少しでも近づく。
「大丈夫だ」
もう一度言う。
今度は、自分に言い聞かせるように。
「カルラ……」
レイカの声。
顔を上げる。
涙を流しているのに……
笑おうとしていた。
「ごめんね……」
「やめてよ、母さん」
思わず強く言ってしまう。
「謝るのは、違うだろ……」
「……そうね」
小さく頷く。
「あなたは、何も悪くない」
「ネリアも、カイルも……」
その言葉に。
胸の奥が、ぐちゃぐちゃになる。
「カルラ」
カイルの声。
目が合う。
逃げていない目だった。
強く、真っ直ぐな目。
「……すまん」
いや、親父は何も悪くない!
悪いというなら、俺だ。
俺は、何もできない。
縛られて、囲まれて、何も守れない。
また、理不尽に奪われるのか?
頭の奥で、声が響く。
前世。
冷たい地面。
届かなかった声。
「それでは、開始します」
神官の声が響く。
火が、灯された。
ぱち……と。
薪が、燃え始める。
最初は、小さな火だった。
だが、その火はすぐに身を焼く業火へと変わる。
「っ……あつ……」
熱気が、肌を刺す。
「やだっ!! やだよっ!!」
ネリアが叫ぶ。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!!」
その声が、かき消される。
炎の音で。
「ネリア!」
叫ぶ。
無理やり身体を動かそうとする。
縄が食い込む。
届かない。
届かない。
「たすけて……!」
その言葉が——
すべてを壊した。
守るって……約束しただろ!
頭の中で、何度も繰り返す。
守るって、言っただろ!
あの日。
確かに思った。
もう失いたくない、と。
なのに。
今、目の前で。
「いやあああああああ!!!!」
ネリアの絶叫。
皮膚の焼ける匂い。
炎に包まれる小さな身体。
「やめろおおおおおお!!!!」
叫ぶ。
喉が裂ける。
誰も、動かない。
神官たちは、静かに見ている。
まるで……
正しいことをしているかのように。
なんでこんなことになる。
答えはない。
ただ一つ、分かることがある。
……こいつらだ。
こいつらが、全部壊した。
怒りが、湧き上がる。
痛みを飲み込むほどの熱。
感情が、暴れる。
「……殺す」
ぽつりと、こぼれる。
誰に向けたわけでもない。
ただの、言葉。
「全部……壊す」
息が、うまくできない。
視界が揺れる。
でも、それ以上に。
胸の内側が、限界だった。
また、理不尽に奪われるのか…
その言葉だけが、頭の中で反響する。
何度も。
何度も。
前世でもそうだった。
理由もなく奪われて。
なにもできないまま、終わった。
そして今も。
同じだ。
ようやく手に入れたものが。
ようやく守りたいと思えたものが。
全部——目の前で焼かれている。
「……ふざけるな」
声が漏れる。
「ふざけるな……ッ!!」
その瞬間。
——何かが弾けた。




