04話 レイジア教の本性
「何があった!」
カイルが扉の方へ歩く。
俺も、反射的に続いた。
扉を開けた瞬間…
目に入った光景に、言葉を失った。
村の中央。
そこに、白い衣の集団が並んでいた。
レイジア教。
だが、昨日まで見ていた神官たちとは違う人だ。
村に派遣されていた神官じゃない。
法衣が俺の知っているものより豪華なものだ。
その背後には、武装した兵が控えている。
そして、村人たちが、押さえつけられていた。
「なっ!なにやってるんだ……!」
カイルの声が低く響く。
その声に反応して、一人の神官が前に出る。
穏やかな笑み。
昨日の神官が浮かべた笑みとは違う…
狂気を抱えたような、そんな笑みだ。
「村長のカイル・ネメシスさんですね」
丁寧な口調。
だがその奥に、感情がない。
「……説明してもらおうか」
カイルが一歩進む。
「何のつもりだ」
「簡単なことです」
神官は、まるで世間話のように言った。
「あなた方は、重要な機密に接触した可能性がある」
一瞬、空気が止まる。
「……機密、だと」
「ええ」
神官は微笑んだまま続ける。
「感情を抑え込むための大規模儀式」
その一言で、背筋が冷えた。
さっきの話と一致する。
「それに関する情報が、一部漏れているようでしてね」
「……ただの噂だろう。確証もない」
カイルが言い切る。
「問題ありません」
神官は首を振る。
「“可能性”があれば、それで十分です」
その瞬間、何かが決定的に狂った。
なんだ、こいつら?
理屈がおかしい。
証拠もないのに。
可能性だけで。
「……おい、それって」
誰かが震える声で言う。
「俺たちが、何かしたって言いたいのか?」
「いいえ」
神官は、優しく微笑む。
「まだ、何もしていません。ですが、何かしたかどうかは関係ないのです」
ぞわり、と全身に悪寒が走る。
「全員、拘束してください」
その一言で。
兵たちが動いた。
「なっ——!?」
まだ拘束されていない村人たちが一斉に騒ぎ出す。
「やめろ! 何する気だ!」
「話し合いじゃないのか!?」
「ふざけんな!!」
だが、止まらない。
容赦なく押さえ込まれる。
手をねじ上げられる。
殴られる。
「やめろ!!」
思わず踏み出す。
だが、その瞬間。
視界がぶれる。
「——動くな」
冷たい声。
気づいた時には、喉元に刃があった。
「カルラ!!」
レイカの悲鳴。
振り向く。
母が押さえつけられている。
ネリアも。
小さな身体が、乱暴に引き剥がされている。
「やだっ! 離してよ!!」
その声が、やけに鮮明に響いた。
「お兄ちゃん!!」
伸ばされた手。
届かない。
「……っ」
歯を噛みしめる。
今、動けば。
殺される。
家族ごと、全員。
ちくしょう…!
何もできない。
まただ。
前世と同じ。
理不尽の前で、何もできない。
「大人しくしてください」
神官の声が響く。
「抵抗すれば、処分します」
「……どういうつもりだ」
カイルが、押さえつけられながら睨みつける。
「まだ説明が足りないのですか?」
神官は少しだけ困ったように肩をすくめた。
「あなた方は“穢れ”に触れた可能性がある」
「感情は、瘴気と結びつく」
「だからこそ——」
その声が、ゆっくりと落ちる。
「焼却による浄化を行います」
静かに、そう言った。
意味が、理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
「……は?」
誰かの声。
自分かもしれない。
「焼却……?」
「そうです」
神官は、変わらず穏やかに頷く。
「火は、浄化の象徴です」
「穢れを焼き、清める」
「ふざけるな!!」
カイルが怒鳴る。
「何が浄化だ!!」
「落ち着いてください」
神官は本当に困ったように言う。
「これは、あなた方のためでもあるのです」
「ふざけるな……!!」
レイカの声が震える。
「私たちは、何もしていない!!」
「ええ」
神官は優しく頷く。
「ですから、今から“正しく”するのです」
その瞬間。
世界が、決定的に壊れた。
理解してしまう。
こいつらは狂ってる。
でも、それだけじゃない。
こちらの言葉が、届いていない。
最初から、聞く気がない。
結論だけが先にある。
「カルラ……」
カイルが、小さく呼ぶ。
目が合う。
その目に——
決意があった。
「……すまん」
その一言で。
胸が締め付けられた。
「お前たちは……」
言葉が、出ない。
「ネリアと……レイカを……」
そこで、言葉が途切れる。
「嫌だ!!」
ネリアが叫ぶ。
「お兄ちゃんと一緒がいい!!」
その声が、耳に刺さる。
「やだよ……やだよぉ……」
泣き崩れるネリア。
その姿を見た瞬間。
何かが、決壊しかけた。
守るって……誓ったのに。
あの時、確かに思った。
もう失いたくない、と。
だというのに。
今、目の前で…
全部、壊されようとしている。




