62話 情報屋
アレンシオ王国の港町、港湾都市アクアポリス。
ここに戻ってくるのも久しぶりだ。
俺たちは麻薬の詳細調査のため、大陸に渡った。
知りたいのは、レイジア教がこの薬に関わっているという確たる証拠と、製造施設の情報だ。
しかし、その手掛かりは見つけることができなかった。
暗い路地裏。
人通りの少ない裏道。
レイジア教の教会も、クロウに探してもらったが、何もなかったようだ。
思い当たるところは大体探した。
薬を使ってる奴らはしばしば見かけた。
だが、常用者は歩いていても心ここにあらずといった様子でいくら問いかけてもまともに話もできなかった。
「うーん、困った。どうしたもんかねぇ…」
「セオリーで行くなら、常用者を尾行して、薬の受け渡し現場を押さえるってところだな」
俺の独り言のような言葉に、クロウが答えた。
…まあ、そうなるよな。
それは俺も思いついていた。
だが、悠長にもしていられない。
長くこの町に潜伏していては、いずれ俺たちの正体がばれてしまう可能性がある。
というのも…
この町のいたるところに俺たち魔人勢力の主要人物の人相書きが出回っていた。
俺やオルガはもちろん、スズカやクロウ、アイズもだ。
特に、俺の場合は右腕の欠損という、どうしたって隠せない身体的特徴もある。
俺の人相書きにも、ぬかりなく”右腕の欠損あり”と追記がされている。
まあ、当然か。
今はフードをかぶり、顔をあまり見られないよう動いているが、こんなので誤魔化せるのも、そう長くない。
…仮面で顔を隠すか?
前世では仮面を被るなんてハロウィンかコスプレでしか見かけなかったが、この世界ではそこまで珍しいものじゃないし。
…まあ、今はいい。
「そうしたいのは山々だが、そう悠長にもしてられんねえだろ」
「そうなんだよなぁ…言ってみただけだ。忘れてくれ」
クロウもわかっていたのか、すぐ取り消した。
まあ、こいつがわかってないはずがないか。
「…俺が贔屓にしてる情報屋に行ってみるかぁ?」
オルガが話に割り込んできた。
…そんな伝手があるなら、早く言ってくれない?
もしかして、この薬がレイジア教によるものだって教えてくれた情報屋か?
「よし、行ってみよう。案内してくれ」
俺たちはオルガの案内の後に続いた。
そして、たどり着いた古い酒場。
なんてベタな…
まあ、確かに目立たない場所だけどさ。
そして、オルガは古びた戸を引く。
扉は軋みをあげて開いた。
「…いらっしゃい。ん?オルガか?ついこの間来たばっかだってのにまた来たのか」
「おう、マスター。いい酒、あるんだろ?」
ん?酒?おいおい飲みに来たんじゃないぞ?
「…ああ、いいのが入ってるぞ。奥に入りな」
そう言ってマスターは、親指で後ろの戸を指した。
…ああ、今のは合言葉か。
その合言葉で大丈夫なのか?
割と言われそうな単語だけど…
…まあいいか。
そして明かりの少ない通路をオルガに続いて歩く。
オルガは通路の奥の扉を開けた。
そこには、黒いローブを着た魔術師のような奴がいた。
顔はフードに隠れて見えない。
「…また来たのかオルガ。どんな情報をお求めかな?」
ん?不思議な声だ。若々しさと老獪さが同居したような…
「俺たちのカシラが情報を欲しがってるってんで、連れてきた」
おいおい、カシラって…
まあ、いいけどさ。
「…ん?ああ、貴方が噂のカルラさんですか。はじめまして、私は錬金術師のメイガと申します。以後、ご贔屓に」
「ん?ああ。知ってるようだが、カルラ・ネメシスだ。以後、よろしく。最近、出回ってるこの薬の出所がレイジア教って情報をくれたのはあんたらなんだろ?その証拠と、製造施設について知りたい」
俺がそう言うと、メイガは目を細めた。
え?何?俺、品定めされてる?
「…製造施設については、我々もつかめていません。ですが、薬の保管場所として怪しいのは、アレンシオ王国の王都ですね。我々が最初に見つけたのも、王都でしたから」
…我々…か。
何らかの組織なのかな?
…まあいいや。
いい情報も手に入った。
「…そうか。ありがとう。お代はいくらだ?」
「初回サービスです。お代は結構。我々にとってもレイジア教は邪魔ですので、お気になさらず」
ほう、気が合いそうだ。
よし、行き先は定まった。
次に向かうべきは、王都だ。




