幕間 ブラフ
サンクレイ神仰国の、教皇の間。
そこに、神威の隊長、ヴィンセントが訪れていた。
「教皇猊下、お呼びでしょうか」
そう言ってヴィンセントは、玉座に座るレイシスの眼前に跪く。
「おお、来たかヴィンセント。監獄島奪還作戦は、失敗したようだな…」
レイシスはそう言って、ヴィンセントを軽く睨んだ。
しかし、ヴィンセントは表情をピクリとも動かさず、意に介すことはなかった。
「はい、猊下のご期待に副うことができず、申し訳ございません。処分であれば、いかようにも…」
「ふん、その程度の失態で、貴様のような使える戦力を始末するような愚は犯さんわ。それに、魔人を減らすことはできたのであろう?であればよい」
レイシスも、激昂することなく、淡々と返した。
「して、ヴィンセントよ。魔王カルラはどうだった?何か情報は得られたか?」
「はっ、奴は紛れもない強者です。勇者との戦闘を観察しましたが、技量、力、速度のいずれも、勇者を圧倒していました。それに、油断ならない魔術を使っていました」
ヴィンセントはレイシスの問いかけに対し、わずかな冷や汗を滲ませ、答えた。
「……ほう、続けろ」
「勇者との戦いの終盤、カルラは勇者を地面に叩きつけるような魔術と、自分の速度を急激に上昇させる魔術も使用していました。いずれも、属性は不明です」
そこでヴィンセントは少し間を置き、続けた。
「…正直に申し上げます。あの魔術を行使されれば、私でも奴を始末することは非常に難しいです。しかし、加速する魔術に関しては、長く使おうとはしていませんでした。何らかのリスクがあるのではないかと」
「……左様か…であれば、そのリスクを突けばあるいは…」
レイシスはヴィンセントの言葉を受け、考え込むようなそぶりを見せる。
「わかった。よくぞ情報をもたらしてくれた。犠牲になった聖騎士の数を考えれば、お釣りが来るくらいだ」
多少の喜びの表情を浮かべ、レイシスは賛辞を述べた。
「ありがとうございます。それと勇者ですが、私の方で言うことを聞くように手を打っておきました」
「……ほう?どうやったんだ?」
どうしたらあの勇者が言うことを聞くようになるのか、レイシスにはわからなかった。
「簡単ですよ。召喚した勇者は、魔術で支配できると吹き込んだだけです。その一言だけで、勇者は支配を恐れてこちらの言いなりにできます。そして、猊下もその魔術が使えると言ってありますので、口裏を合わせて頂きたいのです」
「ほう、流石はヴィンセントだな。これで勇者の手綱を握りやすくなったというものだ。礼を言うぞ、ヴィンセント」
レイシスは悩みの一つが消え、どこかホッとした様子だった。
しかしレイシスは、ヒルファの予想外の一手によって、アラタが真実に迫りつつあることを知らなかった。




