59話 信用できる飲んだくれ
監獄島奪還作戦。
結果的にこれは失敗に終わった。
…だが、俺はこれでよかったと思っている。
あそこは、もう魔人たちの安住の地なんだ。
そこを踏み荒らすのは…嫌だ…
もともと信用していなかったが、ここまで下劣な宗教だとは思わなかった。
俺が召喚されたのも、まとまり始めた魔人の勢力を潰して、教皇が自分たちの都合がいいように世界を牛耳るためなのだろう。
…俺は、こんな下らないことのために、日本での生活を奪われたのか…
正直、もうこのレイジア教には従いたくない。
だが、下手に逆らえば魔術によって支配されてしまうかもしれない。
もちろん、ハッタリの可能性は捨てきれない。
でも、嘘とも言い切れない。
それを確かめるすべは…ない…
一体、どうすれば…
俺が自室で頭を抱えてると、不意に扉が叩かれた。
全く、今度は何だよ…
渋々応じて、客人を招き入れる。
そこに現れたのは、予想外の風貌をした人物だった。
白い法衣。
右手に握られた酒瓶。
ボサボサの髪。
やる気のなさそうな表情。
法衣さえ着ていなければ、ただのだらしないおっさんにしか見えない。
…ていうかこの人、本当に神官か?
いや法衣を着てるし神官だとは思うんだけど。
「よう、おめぇさんが勇者とやらか?」
「え?ええ、まあ…」
酒臭っ!?
なんなのこの人…昼間から飲んでるし…
「んじゃまぁ、自己紹介といこうか。俺はヒルファ、アレンシオ王国辺境の町で、神官をやってるおっさんだ」
「あ、ああ、俺はアラタといいます。はじめまして…」
ええ…なんなのこの人…
ダメなおっさんにしか見えない…
なんていうか、日本にもこんな人いたなぁ…
昼間から缶酎ハイ片手にパチスロ打っているような…
そんな印象だ。
正直、第一印象は最悪。
でも、なんでだろう…
この人は信用できる。
そう確信した。
「いやぁ、挨拶が遅れてすまんかったなぁ。さっきも言ったが、俺のいる教会って、辺境にあるもんだからよぉ。情報が回るのが遅いのなんのってな。ハハハハハ!」
うーん、わからん。なんで俺はこいつを信用できるって思ったんだ?
この人が辺境の町にいるのって、絶対左遷されてるだけだろ…
…いや待て。
この信用できないレイジア教で左遷されるような人なら…
逆に信用できるのか?
…さすがに超理論か?
「んじゃあ、勇者様とやら、しばらく俺に付き合え。一緒に辺境の町への見学と行こうじゃないか!」
「……え?……はあ!?なんで!?」
いやいや待て待て!
なんで!?本当に意味がわからない!
「なんでじゃない!いいから付き合え!小憎たらしい教皇の許可は貰ってるんだ!拒否権はねえ!」
…仕方ない。
頭の整理をするためにも、付いて行ってもいいかもしれない。
そして、宮殿から離れ、王都を出たところで…
ヒルファが俺に問いかける。
「お前さん…レイジア教をどう思う?」
「……素晴らしい宗教だと思います。人間の救済に貢献していると思いますよ」
…こう言っておかないと、面倒だからね。
「…ハハハハ!心にもないことを言うもんじゃないぞ!勇者様よお。ちなみに俺は、くそったれな宗教だと思ってる。感情を鎮めれば救われるだあ?そんなので救われるなら、とっくに世界は救われてるってんだ!」
…おいおいおい、神官がそんなこと言っていいのか!?
神官が無神論者ってどうなの!?
「んでなあ、お前さん、知りたくないか?レイジア教の真実を。これから、それを探しに行くぞ」
「え?そんなのあるんですか?どこに?」
レイジア教の真実?まあ、後ろ暗いことはあると思ってるけど、証拠なんか残ってるのか?
「…あるかもしれない。今から向かうのは、魔人の王、カルラが生まれ育った辺境の村だ。俺一人で行ったら怪しまれそうだったんでな。助かったぜ」
…なんだって?
カルラの生まれ故郷?
…もしかして、カルラが魔人になったのって、レイジア教が深く関係してるのか?
…興味が出てきたな。
「どうやら、乗り気になってくれたみたいだな!一緒にレイジア教の裏の顔を拝んでやろうぜ」
ヒルファはそう言って、足早に街道を歩き始めた。
俺も、そのあとに続いた。




