57話 レイジア教の正義
ヴィンセントさんに抱えられながらやってきたのは、魔人たちが作ったであろう市街地だった。
まだ建設途中の住宅も多かった。
そこで繰り広げられている光景は、俺にとって信じがたいものだった。
「嫌だ!やめてくれ!」
「嫌ああああ!お母さん!助けてえええ!」
「お願いします!子供だけでも見逃してください!」
戦う力を持たない魔人たちが、必死に逃げ惑っている。
そして、まるで狩りでも楽しむようかのように、彼らを殺していく聖騎士。
その中には、俺が尊敬できると感じた人もいた。
……なるほど…彼らはこれが人々のためになると信じているのか…
でも…
俺の目には、魔人たちが忌まわしい存在であるように見えなかった。
むしろ、助けるべき人たちのように映っていた。
「ヴィンセントさん……これは…一体…」
「……レイジア教にとって魔人が忌まわしき存在であることは知っているでしょう?奴らは生きているだけで罪なんだ。だから、こうして狩っているんだよ」
…一体何を言っているんだ?
前世でも覚えがある。
言葉は理解できるのに、言っていることが理解できない。
「だからって、あんな女性や子供まで殺す必要があるのですか!そこに正義はあるのですか!」
俺は思わず激昂する。
生きていることが罪なんて、俺には到底受け入れ難い価値観だった。
「……ごめん、言っている意味がわからない。魔人が悪で、私たちレイジア教が正義。簡単な話じゃないか」
……だめだ…
こいつには…話が通じない。
だが、こんなのを見て見ぬふりなんてできない。
「こんなのすぐにやめるべきです!撤退を指示してください!」
「…それはできないよ。教皇猊下は奴らを皆殺しにすることをお望みだ。…別にアラタ君も手伝えとは言わないよ。そこで観戦でもしてなよ」
どうしてもやめるつもりはないようだ。
なら仕方ない。力ずくでも…
「ああそうだ、アラタ君…力ずくで止めようなんて、考えない方がいいよ。私は教皇猊下から、召喚した勇者を強制的に従わせる魔術を特別に教わっているんだ。私がその気になれば、君の意識を保ったまま、魔人たちを殺させることもできるんだ。この意味が…わかるね?」
俺は思わず動きを止めた。
俺の意識を保ったまま、俺の身体を操り、彼らを襲わせる?
俺が助けるべきだと思った人々を?
嫌だ。そんなの死んでも嫌だ。
畜生…
この光景を…見ていることしかできないなんて…
こんなの正義じゃない。
そして…魔人たちは決して忌まわしき存在なんかじゃない。
でも、レイジア教に従わなければ、俺は支配されるかもしれない。
俺は…何もできなかった。
すると…遠くから咆哮にも似た叫び声と共に聖騎士たちに襲い掛かる三人の魔人。
カルラと、海賊のような魔人と、鴉のような魔人だった。
「これ以上、好き勝手されてたまるか!今度こそ、皆を守るんだ!」
カルラは目にも留まらぬ速さで駆け巡り、聖騎士たちを次々と殺していた。
俺との戦いで最後に使った魔術だろうか。
やっぱりだ。
俺の目には、カルラが忌まわしい存在であるように見えない。
カルラは、自分の身の回りの人々を助けたいだけなんだ。
むしろ…好感を持てる人物だ。
「あーあ、来ちゃったか。潮時だな。『みんな、撤退しよう』」
ヴィンセントはカルラたちの参戦を見て、風属性魔術の”遠隔会話”で、撤退を指示した。
正直こいつらについていきたくはない。
だが、あいつの言葉が本当なら、俺は支配される。
そしたら、俺がここに残ることで、レイジア教に利用されかねない。
今は、ついていくしかない…
俺は、自分がどうすればいいのか、もはやわからなかった。




