56話 残虐
こっちが陽動で、本命は市街地。
クロウからの報告を聞き、思わず自分の耳を疑った。
馬鹿な…あり得ない。
この島の調査は万全といってよかった。
調査の結果、今いる港以外には上陸は不可能だという結論を下した。
だからこそ、ここで敵を食い止めさえすれば勝てると思っていた。
…もしかして……
「クロウ!まさか、海岸から直接内陸部に続く隠し通路があったのか!?」
「ああ!そのようだ!今はガルドが足止めしてくれているが、それも時間の問題だ!」
クソッ!やられた!
このままでは、避難が遅れた人たちが犠牲になってしまう!
「なら早く行くぞ!足止めに加勢する!」
「カルラ、お前は休んでいろ!酷い怪我じゃないか!今はアイズもいないんだ、万が一があったら!」
うん、やっぱりクロウは冷静だな。でも、ここは譲れない!
「俺なら大丈夫だ。今は皆の方が心配なんだ!」
「まあ、気持ちはわからんでもないなぁ…見たところ、出血は少ない。行かせてやってもいいだろ」
そう言ったのは、今までヴィンセントとの激闘を繰り広げていたオルガだった。
「っ!オルガ!ヴィンセントはどうした?」
「ああ、もう少しだったんだが、逃げられた。すまねぇ」
…やっぱそう簡単にはいかないか。
「それで、勇者はどうした?」
オルガは俺に向けて鋭い目を向けた。
…何言ってるんだ?
アラタならすぐそこに…
そう思い、アラタが倒れていた箇所を見ると…
血痕を残して姿を消していた。
どういうことだ?さっきまで確かにいたはずだが…
「さっきまでいたはずなんだがな…まあ、勇者は後だ。今は非戦闘員たちが優先だ。早く行くぞ!」
そうして俺たちは急いで市街地に向かった。
そして、そこに広がっていたのは…凄惨な光景だった。
「やめろ!やめてくれぇー!」
「そうはいかないのさ。お前たちは存在そのものが悪なんだ」
民家には火が放たれ、逃げる魔人たちに襲い掛かる聖騎士たち。
魔人であれば、女子供にも容赦なし。
それも、少しでも長く苦しむように、わざと急所を外していたぶってやがる…
その光景に、あの時の光景がフラッシュバックする。
燃える家屋。
焼かれる家族。
笑うレイジア教の神官たち。
これ以上、好き勝手させてたまるか。
「行くぞ…奴らに容赦はいらない。次は奴らが……狩られる番だ」
俺のその声と共に、三人の怒れる魔人たちが動き出した。
◇
……どういうことだ?
俺は確かに、カルラの爪にやられた。
そのまま気を失って、倒れていた。
だが今は、誰かの肩に担がれている。
「おや、ようやく目が覚めたんだね、アラタ君」
ヴィンセントさんの声だ。
この人、あの海賊っぽい魔人と戦ってなかった?
勝ったのかな?
「オルガの奴、短期間でかなり強くなっててね、勝てなかったよ。逃げてきたんだ。ついでに、倒れてたアラタ君を回収して走ってるのさ」
…走ってるって言うけど、どこに向かってるんだ?
港から離れたら、船に戻れないじゃないか。
…そういえば、俺が事前に聞いてた作戦とは違うんだよな…
俺とヴィンセントさんが先に港に乗り込んで、魔人たちに本隊の上陸を邪魔させないよう引き付ける。
ヴィンセントさんからはこう聞いてたんだけど…
実際の作戦は違うのか?
「アラタ君、早く魔術で傷を癒しなよ。楽しいのは、これからなんだからさ」
表情は見えない。
だが、俺がこの人に対して感じていた違和感…
仮面の裏のどす黒い一面…
それが垣間見えた気がした。




