54話 上陸
…いずれは、こんな日が来るとは思っていた。
戦闘準備と非戦闘員の避難を同時に進める俺たち。
正直、スズカとアイズが出払っているのは痛い。
一応、戦闘員の一人を、スズカたちを呼び戻すためにダンジョンへ向かわせているが、おそらく間に合わない。
…本当に…俺は運がいいんだか悪いんだか…
こうも一番来てほしくないときに来るとは。
「どうする?カルラ。船で迎撃するか?」
「ああ……いや、やめておこう。リスクはあるが、島での迎撃にしよう。船は避難させといてくれ」
正直、迷った。
勇者や神威の隊長の姿がなければ、海上での迎撃を選んでいた。
奴らの戦力はいまだ未知数。
万が一にも船を沈められたら俺たちはこの島に缶詰めになる。
もちろん、島での迎撃も相当なリスクだ。
俺たちがやられたら非戦闘員の魔人たちはどうなるか…
想像に難くない。
だからこそ、絶対に勝たなくてはならない。
俺は魔人たちの首領だ。
皆のことは…守ってみせる。
「みんな、準備はいいか?相手を倒そうなんて思わなくていい。まず優先すべきは、自分の命だ。決して深追いするな。それから、勇者か神威の隊長だと思われる奴を見かけたら俺かオルガを呼んでくれ。奴らとは決して戦うな。頼んだぞ!クロウはみんなのサポートを!」
俺がそう言うと、魔人たちの顔が覚悟を決めたものに変わった。
…死に急ぐことだけはしないでほしいものだ。
そして、レイジア教の船を見る。
船は高速でこちらに接近していた。
すると、船の甲板からこちらに跳躍する二つの影。
そして、俺たちの眼前に着地する。
「どうも、魔人たちよ。私の名はヴィンセント。神威の隊長だ。悪いが、世界のために、死んでくれ」
そう言って、長身の男は長剣を抜き、オルガに斬りかかった。
「おうおう早速俺かぁ?せっかく捕らえた俺に逃げられたことが相当悔しかったのかぁ?」
オルガとヴィンセントとやらの一騎討ちが始まった。
…まあ、オルガも腕を上げているし、そう簡単にやられることはないだろう。
「…となると、お前が勇者か?」
「ああ、そうだ」
俺は、白い鎧を着込み、長剣を背負った青年に声をかけた。
中肉中背で黒髪の好青年といった印象だ。
それにこの顔立ち…
日本人か?
「……まずは自己紹介といこうか。俺の名は、カルラ・ネメシス。魔人たちの首領だ」
「…そうか、君が魔王か。俺はアラタ・シノノメ。勇者だ」
アラタ・シノノメ…
間違いない。日本人だ。
だが、関係ない。
進んで殺そうとは思わないが、俺たちを害そうというのなら、それ相応の報いを受けてもらう。
「勇者アラタ…お前に恨みはないが、俺たちの邪魔をするというのなら、痛い目にあってもらう」
「…そうなっちゃうよね。仕方ない。殺しはしないが、しばらく動けなくなってもらう」
そうして、勇者アラタは背中の長剣を引き抜き、斬りかかってくる。
俺の左目は、アラタの体内を魔力が高速で循環しているのを見逃さない。
身体強化か。
そりゃあ使えるよな。
俺はアラタの長剣を左腕の鉤爪で受け止める。
すると、アラタも左手で火属性魔術を構築し、放つ。
即座に長剣を捌き、左手で魔術を喰った。
こいつ、剣術も魔術も高レベルだ。
簡単に倒せそうにはない。
「…悪いな。俺に魔術は通用しないぞ?」
「そのようだね」
俺はすかさず右腕を触手に変形させ、アラタに向けて伸ばす。
アラタも予想していたようだ。
右手の長剣で触手を切断。
そのままの勢いで俺に向けて疾走。
速い!
まあ、俺の方も予想してたけどな。
俺は右腕をすかさず剣に変形。
長剣を受け止める。
そして…左腕の鉤爪をアラタの腹に叩き込む。
よし、捉えた!
しかし、アラタは寸前で身体をひねり、ギリギリで躱した。
はあ!?どんな反射神経してやがる!
「おいおい、今のよく躱したな」
「へっ、よゆーよゆー」
アラタは余裕を装うように、薄く笑って答えた。
しかし、額から垂れる汗は隠せていない。
…なるほど、こいつ、勘がいいタイプか。
おそらく、さっきの攻撃は見えていなかったのだろう。
しかし、勘で避けた。
見えているよりよほど厄介だ。
…これは、長期戦になるかもな。




