53話 違和感
アラタが勇者として召喚されてから早いもので、一か月以上も経過していた。
最近では、説法の時間が増えてきている。
聞いてるフリをしているだけだが。
それから、やたらと魔人が忌々しい存在だと俺に刷り込みたいようだ。
だが、忌々しいかどうかは別として、清廉潔白な魔人はそう多くないそうだ。
…まあ、それも真実かどうかは知らないが。
…なにしろ、今まで魔人なんて見たことがない。
正当な善悪の評価などできるわけがない。
まあ、それはいい。
最近は、対人戦をメインにした戦闘訓練を積んでいる。
……余程俺を魔人対策の決戦兵器にしたいらしい。
神威の隊長であるヴィンセントさんからも魔法や剣技などの指導を受けている。
ヴィンセントさん曰く、俺はBランクの傭兵と同等程度には強くなってるらしい。
…まあ、魔王と戦うかどうかはこの際どうでもいい。
だが、命の軽いこの世界で生き抜くには力が必要だ。
だから、俺は強くなりたい。
そして、理不尽に苦しめられる人々を救えるように…こうして剣の腕を鍛えている。
現在は、聖騎士を相手に模擬戦を行っている。
「うおおおおお!」
俺は掛け声と共に木剣で斬りかかってくる聖騎士を軽いステップで横に躱し、カウンターを叩き込んだ。
……っていうか、斬りかかるときに声を上げるのってどうなんだ?
威圧の効果はあるんだろうけど、疲れるし、小物感が出るからデメリットの方がおおい気がするんだよなぁ。
腹に木剣を叩き込まれた聖騎士は、呻きながら言った。
「ぐぅ…さすがは勇者様です。私なんて、足元にも及びませんね」
「いえいえ、とんでもない。私は偶然身体能力に恵まれて召喚されたに過ぎません。技量面では私の方があなた方の足元にも及びませんよ」
聖騎士たちは俺のご機嫌取りをしようとしてるのか、やたらとヨイショしてくる。
正直、鬱陶しい。
ただ…この聖騎士たちからは妙な違和感を感じることはなかった。
純粋に人々のため戦おうという意思を感じる。
この人たちは信用できる気がする。
「アラタ君、少しいいかな?」
そう言って俺に話しかけてきたのは、神威の隊長、ヴィンセントだった。
「はい、ヴィンセントさん。何か用ですか?」
…表面的には誠実で、礼儀正しい人だ。
だが、この人はどうにも違和感がある。
普段共に訓練している聖騎士とは違って…
なんていうか…
作り物の仮面のような…
その仮面の下に、どす黒い何かを隠しているような…
そんな違和感を…
「教皇猊下から、監獄島を奪還せよとのご命令が下った。今回はお前にも来てもらいたい。いいかな?」
ようやく実物の魔人に会えるようだ。
さてさて、レイジア教の言う通り、汚らわしいのかどうなのか、確かめに行こうじゃないか。
そうして、俺とヴィンセントさんは、聖騎士たちと共に、監獄島までの航海に出発した。




