47話 崩壊の足音
アラタが勇者として召喚されて数日。
あれから日々、戦闘訓練や魔術の訓練、レイジア教の説法などを聞かされている。
……説法については聞いてるフリをしてるだけだが。
戦闘訓練と魔術の方は順調だ。
神威の隊長だとかいう奴は、少なくとも表面的には礼儀正しい人だった。
名前はヴィンセントというらしい。
それに、強かった。
神威の隊長から習った身体強化の技術もそれなりに身に着いた。
俺の長剣の技術の方はまだ未熟だが、どうやら筋はいいようだ。
魔術の方は、どうやら、適正に恵まれていたようで、火、水、土、風、光、闇の魔術が使えた。
……そう、全属性適性だった。
完全にご都合展開だ。
どうやら勇者という存在はご都合展開の塊らしい。
あと、あれだ。ご飯については助かった。
比較的ヨーロッパと似た食文化をしており、味もそれなりだ。
米がないのが少し不満だが、この際贅沢は言えない。
時折、宰相と食事を共にするが、正直こいつも信用ならない。
俺を勇者として召喚した以上、毒を盛ることはないだろうが、食事を共にとる目的がわからない。
俺が食事を終え、席を立つと、時折宰相は、眉間に皺を寄せて俺を見ていることがあった。
あれは何だったのだろう…
実は俺の食事に何か盛られているが、俺にそれが効いていないのだろうか?
……うーん、わからん。
あいつら何を考えてるんだ?
◇
「勇者はどうだ?順調か?」
「はい、ヴィンセントの報告によると、武術、魔術ともに優秀だとのことです。まだ数日ですが、既に聖騎士と同程度か、それ以上の力を身に付けているようです」
レイシスは、アレクシスに勇者の教育状況を聞くと、戦力的には満足のいく状況であったことに、少し上機嫌になった。
しかし、レイシスが真に聞きたかったのはその解答ではなかった。
「ほう、それは重畳だ。魔王を消してもらわねばならぬからな。強いに越したことはない。しかし、聞きたいのは戦力の状況ではない。わかっておるな?」
そのレイシスの発言に、アレクシスは表情を歪ませていた。
「……どうやら勇者として召喚された際に毒無効の能力を得たようです。食事にあの薬を混ぜ込みましたが、薬が効いている様子は一切ありませんでした」
アレクシスの発言に、レイシスも表情を歪ませていた。
「……食事に盛ると効果がなくなるということではないのか?」
「既に奴隷を実験台にして、食事に盛っても効果を発揮することは確認が取れております。薬や毒が効かない体質になっているとしか思えません」
レイシスの疑問にアレクシスは心底忌々しそうな表情を浮かべながらも冷静に答えていた。
しかし、レイシスの方はそうはいかなかった。
アレクシスの発言を聞いたレイシスは、玉座のひじ掛けを強く叩いた。
「クソが!忌々しい勇者だ!かといって大人しく私の言うことを聞く性格だとは思えん…」
「猊下、問題ありません。薬が効かなかったのは確かに痛手でしたが、まだ教育の方で挽回できます。魔人が忌々しい悪だと刷り込めばいいのです。時間はかかりますが、効果はあるはずです」
レイシスはアレクシスの言葉を聞き、落ち着きを取り戻す。
「ならばよい。勇者が魔王を止めねば私の悲願は断たれたも同然なのだ。頼むぞ、アレクシス」
そこまでレイシスが言うと、教皇の間にサンクレイ王国の情報官が駆け込む。
「緊急!緊急のご報告です!監獄島が、魔人の襲撃を受け、陥落しました!主犯は、件の魔人である可能性が高いとのこと!名前は、”カルラ・ネメシス”と名乗ったとのことです!」
「な!なんだと!」
その報告を聞いたレイシスは滅多に見せない焦りの表情を浮かべていたのだった。




