45話 師匠
監獄島はかつてないほど騒がしくなっていた。
しかし、それは人間による騒がしさではない。
監獄島には既に人間の姿は消え、魔人が支配する島へと変貌していた。
その監獄島の一角に、カルラとスズカ、老人の魔人が森林の中の開けた場所に向かっていた。
「そういや、あんた名前は?聞いてなかったよな?」
俺としたことが…
名前を聞かずに教えを請おうとは、失礼だったな。
「おお、そういえば名乗っておらんかったな。これはすまなかったのう。儂の名はガルド・ヴァイスという。以後、よしなに」
ガルドと名乗ったその老人は穏やかな雰囲気を纏って言った。
そうして互いの自己紹介も終わり、和やかな雰囲気で歩いていた。
そして、開けた場所に到着すると、ガルドはその穏やかな雰囲気から一転、牢獄内で発していた、まるで龍のような威圧感を発した。
いや、牢獄内で発していた威圧感など比べ物にならない…
「よし、儂のほうはいつでもよいぞ。かかってこい若造…」
「……これは…俺の直感は正しかったようだな。やっぱりあんたは只者じゃなかった」
だが、大人しく負けてやるつもりもない。
若造の恐ろしさを見せてやろう。
◇
これほどとは思わなかった。
手合わせが始まって数分。
俺とスズカは広場で倒れ伏していた。
……恐るべし、仙人…
まずは、俺から戦った。
出し惜しみはせず、ありとあらゆる手札を使った。
身体強化、炎熱加速、変幻自在の右腕。
すべて通用しなかった。
いや、正確に言うなら当たらなかった。
俺の攻撃すべてが躱され、いなされた。
身体強化と炎熱加速を使って、掠らせることはできたが、結果は大差なかった。
あらゆる攻撃は封殺され、ガルドの攻撃は的確に俺の身体を捉えていた。
スズカも似たようなものだった。
刀による攻撃はすべて躱され、受け流され、カウンターをもらってしまっていた。
まるで相手にならなかった。
っていうか、これ程の腕を持つ魔人がどうして捕まってたんだよ!
この人が負ける要素を、少なくとも俺には見つけることができない。
「ほっほっほっ、中々筋がいい若造共じゃ!鍛え甲斐がありそうじゃ!わかった、お主らを鍛えてやろう!」
「ははっ、有難いね。是非お願いするよ」
「うん!お願い!私ももっと強くなれるんだ!わくわくするよ!」
そう言って俺とスズカは自分たちがまだまだ強くなれるという事実に、思わず笑いがこみ上げていた。
それを聞いたガルドも、心底楽しそうに笑っていた。
「ああそうだ、ガルド、あんたなんで捕まってたんだ?あんたなら神威の奴らなんて敵じゃないだろ?」
「ああ、それな、年寄りの弱点を突かれたんじゃ。儂が疲れるまでひたすら神威と聖騎士が襲い掛かってきてのう。途中から疲れてしまって、投降したんじゃよ」
俺の心からの疑問にガルドは苦笑いしながら答えた。
……なるほど。武術の達人であろうとも、歳には勝てないか。
さて、そろそろ戻らなくては。
「じゃあ、スズカ、ガルド、古城に戻るぞ!今日からこの島は俺たちのものだ!地盤を整えたら、レイジア教に宣戦布告するぞ!」
「おお!いよいよだね!やろう!」
「ほっほっほっ、何やら楽しそうじゃのう。だが、いまのお主らでは戯言にしかなってないわい。ここはひとつ、儂が手ほどきして戯言を強者の自信に変えてやるとするかのう」
そう言って俺たちは古城に足を向けた。




