38話 レイジア教の狂気
荘厳な雰囲気の場所から連れ出された”東雲新”改め、アラタ・シノノメはアレクシスの案内を受けて、個室をあてがわれ、現在世界がおかれた状況の説明を受けていた。
「…とまあ、こんな感じで、現在、神の敵である魔人たちの王、言わば魔王の出現によって、人類の守護者である我々レイジア教は苦境に立たされています。ご理解いただけましたか?」
アレクシスはにこやかに、レイジア教の教えと置かれた状況を説明し、アラタはそれを真剣に聞いていた。
だが、真剣とは言っても、アラタはレイジア教の教えに共感したわけではなかった…
むしろ共感できないからこそ、違和感の正体を探るため、真剣に聞いていた。
(教皇もそうだが、レイジア教の教えにはどうも納得がいかない。瘴気なんてものがあるなら、強い感情を持つのが危険だというのはわかる。だが、抑えるのは違う気がする)
この瘴気という存在を利用して、宗教というシステムのもと、人間を自分たちの都合がいいように操ろうとしているような…
アラタは、そんな予感がしてならなかった。
(魔人を忌まわしい、邪悪な存在だと決めつけているのも引っかかる。確かに、本当に救いようのない魔人もいるのだろうが、それは人間も同じだ)
むしろ、もとは同じ人間であるというのに、悪意もなく弾圧する宗教ほど信用に値しない。
「……なるほど、貴方たちの言いたいことは理解しました。あとは自分の目で確かめたいと思います」
アラタは真面目な表情のまま、アレクシスに向けて返答する。
このレイジア教という宗教は胡散臭いが、言っていることが全て間違っているとは限らない。
勇者として動きながら、真実を探る必要がある。
それを聞いたアレクシスは一瞬、感情が消え失せたような冷たい目線をアラタに向けたが、すぐににこやかな表情に戻った。
「……そうですか、わかりました。ひとまず、魔王を倒すためには力が必要です。師として、我々の実行部隊である神威の隊長を付けますので、彼の指導を受けてください」
そう言ってアレクシスは、椅子から立ち上がり、部屋から退室した。
◇
「して、アレクシスよ、勇者はどうであった?役に立ちそうか?」
アラタへの説明を終え、教皇の間に戻ったアレクシスにレイシスは問いかける。
レイシスにとって、勇者とは魔王を消すための道具にすぎない。
役に立たないなら召喚した意味がないのだ。
「…あれはダメですね。我々の言うことを真に受けて言うとおりに動くような扱いやすい人間ではないようです」
レイシスの問いかけに対し、アレクシスは忌々しそうな表情で返した。
「部屋を出る直前、闇属性魔術による洗脳を試みましたが、失敗しました。どうやら、召喚の際に精神支配無効の能力を得たようです」
「くそっ!忌々しい!おとなしく私の操り人形になっていればいいものを!」
アレクシスの発言を受け、レイシスは心底憎らしいと思っているような表情で声を荒げる。
まるで、自分の思い通りにならない人間は邪魔だと言わんばかりに…
しかし、その表情もそう続かずに、いつもの傲慢そうな表情に戻る。
そして、レイシスは何か思いついたように醜悪な表情で言った。
「…そうだ、アレクシスよ、勇者にあの薬を与えよ。疑り深いようであるし、食事にでも盛ればよい」
「ああ、なるほど。さすがは猊下、ご慧眼です。早速、準備に取り掛かります」
そう言ってアレクシスは、再び教皇の間を後にした。
◇
サンクレイ神仰国の王城の地下…
そこに、完全に秘匿された”鎮静化計画”に関する研究が進められていた。
その一角に、アレクシスの姿があった。
「おお、これはこれは宰相閣下。こんなところになんの御用でしょうか?」
そう言ってアレクシスに話しかけたのはその研究室の室長であった。
汚れた白衣を羽織り、丸眼鏡をかけ、髪はボサボサになっている。
諸々の手入れしていないことが明らかな様相であった。
「急遽、研究中の薬が必要になった。進捗はどうだ?」
「おや、そうでしたか。ご安心を、先日完成いたしました。現在は経過観察を行っておりますが、経過は上々でございます。今からご案内しながら説明させて頂きます」
アレクシスの問いかけに対し、室長は目をぎらつかせて狂ったような声で答えた。
そして、室長の案内に従い、アレクシスは室長の後に続いた。
そうしてたどり着いたのは…
複数の牢屋が備え付けられた一室だった。
一つの牢につき一人が囚われており、そこに広がる光景は…まさに目を覆いたくなるような光景だった。
「……………あ……」
一人は目が虚ろになり、自分で考えることをやめてしまったような様相である。
「……あー…うぅ…」
一人は目は虚ろだが、自分の意思で行動することができている。
「…あ…あれをくれ…あれがないと不安で死にそうなんだ…はやく…」
一人はギラギラした目を力いっぱい見開いており、何かを追加で求めている様子である。
「ほう…この被検体たちはそれぞれどう違うんだ?」
アレクシスはこの光景を見て、目を逸らすでもなく、まるで物を見るような目で眺め、室長に説明を求めた。
「はい、最初の被検体は、薬の投与から三日が経過した状態です。自分の意思では一切の行動を起こさず、投与した人間の指示には忠実に行動することが確認できています。実演してみましょう」
そう言って室長は最初の被検体に対し、ナイフを握らせて、命じた。
「自害しろ」
室長がそう言うと、被検体は躊躇う様子も見せずに、ナイフを自分の首に突き立て、崩れ落ちた。
「…なるほど、効果は上々のようだな」
「はい、まさに我々の操り人形です。二つ目の被検体は投与から一週間、三つ目の被検体は二週間経った個体でございます。二週間経過すると薬の効果が切れ、禁断症状が発生するようです」
アレクシスと室長の両者は薬が上々の効果をあげていることに歓喜しながら談笑を続けた。




